個人差が大きい介護費用。親の資産でまかなえるか確認を

介護費の総額

約500万円(1人あたり)

生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」によると、毎月の介護費用の平均は7万8,000円 ※1。同資料での介護の平均期間は、54.5カ月 ※2で、その他にも住宅改造や介護用ベッドの購入などの一時費用が平均69万円かかっています。
単純に合算すると、(7万8,000円×54.5カ月)+69万円=494万1,000円。1人あたりの介護費用総額の平均は、約500万円ということになります。

  • 介護保険サービスの自己負担額も含む
  • 現在介護を行っている人も含む

ただ、このデータはあくまでも平均。介護費用は、個人差が大きく、標準モデルはないのが実情です。介護施設に入る場合は、選ぶ施設の種類によっても、かかる費用は大きく異なります。

今回は、自宅で介護した場合、特別養護老人ホームに入居した場合、介護付 有料老人ホームに入居した場合といった3パターンで、介護の月額費用のシミュレーションを行いました。本人が保有している資産と毎月の年金額でまかなえるかどうか、考える際の目安にしてみてください。

  • 「特別養護老人ホーム」とは、介護保険のサービスで入所できる施設。一方、「介護付 有料老人ホーム」は民間が運営する施設です。

●介護の月額費用のシミュレーション

(要介護3/支給限度額までサービスを利用/自己負担1割の場合の月額費用を試算)

下の表は横にスクロールできます

在宅介護(持ち家の場合) 特別養護老人ホーム 介護付 有料老人ホーム
介護サービス利用料 26,931円
*区分支給限度基準額満額まで使用
25,000円程度
*施設や居室タイプによって異なる
25,000円程度
*施設や居室タイプによって異なる
介護サービス以外の費用 17,000円 ※3
*在宅介護にかかる介護サービス以外の支出「介護用品」「その他」より
10,000円 ※2
*施設により設定した日常生活費(歯ブラシ、シャンプー、タオルなど要介護者の日常生活に最低限必要と考えられるものなど)
約10万円∼30万円 ※1
*家賃・利用料など(都内の場合)
食費 36,604円 ※4 41,400円(1,380円/日×30日)※2 41,400円(1,380円/日×30日)※2
*施設により異なる
月額合計 約80,535円 約76,400円∼150,000円 約166,400円∼ 368,331円
備考 ●家賃や水道光熱費などは含まず ●入居の際にかかる一時金なし
●要介護3以上でないと入所できない
●入居時に支払う一時金は含まず(一時金は0円から1億円を超えるものまで幅広い ※1
  • 東京都福祉保健局 「あんしん なっとく 高齢者向け住宅の選び方」(2019年1月時点)
  • 厚生労働省 「サービスにかかる利用料」
  • 家計経済研究所「在宅介護にかかる費用」
  • 総務省「家計調査報告」P38 「単身世帯 60歳以上 食料」より

介護や医療については、可能な限り保険や公的制度を活用しよう

65歳以上の人で、市区町村から「介護や支援の必要がある」と認定されると利用できるのが、介護保険。訪問介護や介護施設への入居だけではなく、自宅に手すりをつける費用など、介護に関係する諸々の出費への補助もあります。 所得によって異なりますが、自己負担は1∼3割。さらにその自己負担額にも、月ごとに上限が設けられています。

●介護保険 自己負担額の上限(月額)

区分 自己負担額の上限(月額)
前年の合計所得の金額と公的年金の収入額が年間80万円以下の場合 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
世帯の全員が市区町村民税を課税されていない場合 24,600円(世帯)
世帯のだれかが市区町村民税を課税されている場合 44,400円(世帯)
現役並みの所得者がいる世帯 44,400円(世帯)

また、介護に加えて、医療機関などによる治療を受けた場合は、医療と介護の費用を合算し、一定額を超えると超過分が還付される「高額介護合算療養費制度」という制度を利用できます。

●70歳以上の高額介護合算療養費制度の年間上限額(2018年8月∼2019年7月)

区分 自己負担額の上限(月額)
住民税非課税の世帯 19万円∼31万円
一般の世帯 56万円
年収370∼770万円の世帯 67万円
年収770万円∼1160万円の世帯 141万円
年収1160万円∼の世帯 212万円

収入が年金だけの世帯では、「住民税非課税」「一般の世帯」「年収370∼770万円」のいずれかに該当する場合がほとんどです。よって、医療と介護の費用を合わせた年間の自己負担額は最大で67万円と考えて良いでしょう。今後、負担が増える可能性はあるものの、保険が適用される部分については上限額が設定され続け、極端に高い費用がかかるという心配もないはずです。

一方、問題となるのは保険適用外の費用。どういった介護を受けるかによって、大きく異なります。上でシミュレーションした「有料老人ホーム」など、民間の介護施設に入居する場合はある程度まとまったお金が必要になります。切り出しにくい話題ではありますが、「どういった介護を受けたいか」「どれくらい資産があるか」などを、元気なうちに、親と対話し、兄弟姉妹などで共有しておきたいところです。

特に、親の資産の把握は重要です。病気になったり認知症が進んだりすると、どの銀行にお金を預けてあるのかが分からなくなる可能性があります。一案として、現金、預貯金、株式などの金融資産を、銀行名・口座番号などを記載して、一覧表にまとめておいてもらうと便利です。具体的な金額は記載しなくてもOKです。

また、任意の保険についても確認しておきましょう。入院したときや手術を受けたときに保険金が受け取れる医療保険、がん保険、死亡したときに保険金が支払われる生命保険など、いずれも保険会社に請求をしなければ保険金を受け取れません。

介護費用は、被介護者自身の年金や資産で支払うことができればベストです。冷たいと思われるかもしれませんが、親の介護費用を負担すると、自分の家計のバランスが崩れて、自身の老後に支障をきたすかもしれません。

親の年金や資産があまりなさそうだという人は、勤め先の団体保険を確認してください。近年、損害保険各社が企業向けの団体保険で、親の介護費用を補償する保険商品を増やしています。介護が必要と認定されると、10年間最大1,000万円まで補償される保険もあります。会社側がいわゆる「介護離職」を防ぐ目的で導入しており、保険料も割安な場合が多いようです。会社員の人に限られますが、親の介護費用が心配な場合には確認しておきましょう。

親が元気な時に、介護や資産のことを尋ねるのは、なかなかハードルが高い作業ですが、今回の記事をきっかけに、親御さんと介護について話す機会をつくってみてはいかがでしょうか。

ファイナンシャルライター 瀧 健

『PRESIDENT Online』などの経済系Webメディアでも多数の執筆協力経験をもつ。ライフプランや資産運用の提案が得意。自らも株式・債券・投資信託などの運用を行っている。社会保障にも詳しい。

企業型イデコ知らないと損? DC+iDeCo確定拠出年金制度が2022年10月に改正されました!

シリーズの記事一覧を見る

関連記事

保険(そなえる),健康・医療,共働き,退職後