「そういえば、iDeCoはどうやって受け取るのだろう? 」と疑問に思ったどれみさん。
iDeCoの受け取り方や何歳から受け取れるのか、FP(ファイナンシャルプランナー)に教えてもらうことにしました。
iDeCoは受取時にも税制優遇が受けられる
公的年金とは別に給付を受けられる私的年金制度のiDeCo。iDeCoで得られた利益は非課税なうえ、受取時も税制優遇が受けられます。
ここで一度、iDeCoの税制優遇をおさらいしておきましょう。
タイミング |
税制優遇 |
拠出時(掛金支払い時) |
加入者が拠出した掛金は全額所得控除 |
運用時 |
運用益について運用中は非課税 |
給付時(受取時) |
・年金として受給:公的年金など控除 ・一時金として受給:退職所得控除 |
上記の表のとおり、iDeCoの受取時の税制優遇には2つの控除があります。受け取り方と2種類の控除について、くわしくは後述します。
そもそもiDeCoの受け取りは何歳からできる?
iDeCoの受け取りは60歳からでき、原則60歳になるまで資産を引き出すことはできません。
ただし、60歳からiDeCoを受け取るには、最初の掛金拠出から10年経過していることが条件です。なお、10年に満たない場合の受給可能年齢は次のとおりです。
iDeCo加入年齢 |
受給可能年齢 |
50歳超〜52歳 |
61歳 |
52歳超〜54歳 |
62歳 |
54歳超〜56歳 |
63歳 |
56歳超〜58歳 |
64歳 |
58歳超〜60歳 |
65歳 |
60歳超〜64歳 |
加入から5年を経過した日 |
一度iDeCoを受け取ってしまうと掛金を拠出できなくなりますが、60歳を過ぎても積み立てを継続する場合は65歳まで掛金の拠出が可能です。また、運用自体は75歳まで継続できます。
iDeCoの受取可能年齢 |
60歳から |
iDeCoの掛金拠出可能年齢 |
65歳まで |
iDeCoの運用可能年齢 |
75歳まで |
iDeCoの受給方法は3種類! 受け取り方で税金が異なる
前述のとおり、iDeCoの受け取り方には年金として、あるいは一時金として受給する方法があります。そのほかに、一部を一時金として、残りを年金として受給する方法もあるため、全部で3種類の受け取り方から選択できます。
3つの受給方法は、それぞれかかる税金が異なるため、ここでは受け取り方ごとの仕組みと税金の種類についてみていきましょう。
一時金で受け取る場合の税金
そもそも「一時金での受給」とは、iDeCoで運用していた資産を現金化し、一括で全額受け取る方法です。
税制上、一時金で受け取る場合は退職所得の扱いとなるため、退職所得控除を利用できます。退職所得控除とは、課税対象となる退職所得から、一定金額を差し引ける制度です。
退職所得控除額を求めるときは、勤続年数(iDeCoの運用年数)に応じて計算式が異なります。
iDeCoの運用年数(=A) |
退職所得控除額 |
20年以下 |
40万円×A |
20年超 |
800万円+70万円×(A-20年) |
さらに以下の計算式で退職所得を求めると、iDeCoの受取時の金額を計算できます。
退職所得の金額=(源泉徴収前の収入金額ー退職所得控除額)×1/2
たとえば、iDeCoの運用期間が25年で資産が2,000万円の場合で考えてみましょう。
退職所得控除額は800万円+70万円×(25-20)=1,150万円で、退職所得は(2,000万円-1,150万円)×1/2=425万円となります。よって、425万円に所得税がかかる仕組みです。
年金で受け取る場合の税金
iDeCoを年金として受け取る場合、公的年金と同様に毎月一定額を受け取ることができます。この場合、所得の種類は雑所得となり、公的年金など控除を受けられます。
例として、公的年金などに係る雑所得以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合における、雑所得金額の求め方を以下に示します。
受け取る人の年齢 |
公的年金など収入金額の合計 |
公的年金など係る雑所得の金額 |
65歳未満 |
60万円以下 |
0円 |
60万円超130万円未満 |
合計額-60万円 |
130万円以上410万円未満 |
合計額×0.75-27万5,000円 |
410万円以上770万円未満 |
合計額×0.85-68万5,000円 |
770万円以上1,000万円未満 |
合計額×0.95-145万5,000円 |
1,000万円以上 |
合計額-195万5,000円 |
65歳以上 |
110万円以下 |
0円 |
110万円超330万円未満 |
合計額-110万円 |
330万円以上410万円未満 |
合計額×0.75-27万5,000円 |
410万円以上770万円未満 |
合計額×0.85-68万5,000円 |
770万円以上1,000万円未満 |
合計額×0.95-145万5,000円 |
1,000万円以上 |
合計額-195万5,000円 |
たとえば、60歳でiDeCoを年金形式で受け取る場合、公的年金とiDeCoの受け取り金額の合計が200万円だったとします。この場合、200万円×0.75-27万5,000円=122万5,000円が雑所得となり、課税されます。
一時金+年金で受け取る場合の税金
iDeCoは、一時金と年金形式の2種類を併用して受け取ることもできます。一時金として受け取る金額を決め、残りの資産は年金形式で受給します。
その際、一時金として受け取る金額には退職金控除、年金として受給する金額は公的年金など控除を受けられます。
どれが有利? 受け取り方ごとの注意点
前述のとおり、iDeCoを受け取る方法には以下の3種類があります。
1. 一時金として受け取る
2. 年金として受け取る
3. 一時金+年金として受け取る
では、どの方法で受け取るのがお得なのでしょうか。受け取り方ごとの注意点も含めて説明します。
一時金で受け取る場合は退職金がいくらか確認
iDeCoを一時金で受け取る場合、退職金の扱いとなるため、実際の退職金がいくらかによって課税額が異なります。
たとえば、退職金が多い場合、iDeCoを一時受け取りにしてしまうとiDeCoも退職金所得としてカウントするため、課税所得が増えてしまいます。
その場合、退職金とは別にiDeCoを年金形式で受け取る、あるいは一部を一時金として受け取り、残りを年金形式で受け取るほうが、税金を減らせる可能性があります。
年金で受け取る場合は他の所得などに注意
iDeCoを年金形式で受け取る場合は、公的年金などほかの所得に注意が必要です。前項で提示した表では、たとえば65歳未満でiDeCoの受給額が60万円未満だった場合、雑所得は0円となり所得税はかかりません。
しかし、iDeCoのほかに公的年金などの所得があると、それぞれに所得税がかかることを忘れないようにしましょう。
iDeCo以外で他の所得がない方は、iDeCoを一時金受け取りにした場合に、退職所得控除枠をフル活用できるため「一時金」で受け取るとお得になります。
一方で、退職金が多い方や、公的年金、iDeCoの給付額が少ない方は「年金」形式で受け取ったほうが課税額を抑えられ、よりお得にiDeCoの給付金を受け取ることができます。
退職金も年金も多いという方は「一時金+年金」として受け取り、退職所得控除内に収まらなかったiDeCoの給付額を年金として受け取ると課税額を抑えられます。
まずは自分に公的年金やその他所得がいくらあるかを確認し、それぞれにあった方法での受け取りを検討してみましょう。
▼受給条件などをくわしく知りたい方はこちら
iDeCo(個人型確定拠出年金)の特徴とは : 三井住友銀行
iDeCoの受け取り手続きを知ろう!
最後に、iDeCoを受け取るときの手続きは以下の手順で進めます。
1. 受給権資格取得通知書が届く
2. いつ、どのような受け取り方をするか決める
3. 受け取りを開始したい時期が近くなったら、必要書類を取り寄せる
4. 印鑑登録証明書などの添付書類を準備する
5. 書類に記入と押印をして提出する
6. 書類の確認が行われる
7. 書類に不備がなければ給付裁定結果通知書が届く
受給権資格取得通知書や給付裁定結果通知書は、iDeCo運用中の金融機関に登録している住所に届きます。引越しで住所変更を忘れていると、自宅に届かないことがあるため、事前に登録住所を確認しておきましょう。
また、受給権資格取得通知書が届いてから、いつ受け取りを開始するかによって必要書類を準備する時期も異なります。iDeCoの受け取りを希望する時期に間に合うよう、余裕を持って書類を取り寄せるのがおすすめです。
まとめ
iDeCoは60歳から受け取ることが可能です。また、受取時に税制優遇が受けられます。
iDeCoの受け取り方は、一時金・年金形式・一時金+年金形式の3種類があり、希望する方法を選べます。
ただし、それぞれの受け取り方によってかかる税金が異なるため、注意が必要です。
退職金やそのほかの所得を含めた収入を整理して、自分に合う受け取り方を選択しましょう。
※2023年4月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
- 執筆: 大木 千夏(おおき ちなつ)
- 独立系FP、金融ライター。もともとは臨床検査技師として病院に勤務、その後フリーランスライターとして独立した。ライターとして活動するうち、金融業界に興味を持ちAFP取得後、独立して横浜に事務所開設。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士、AFP。
https://oki-fp.jp/