海外投資への道

2018.9.26

マンガレポート イラストレーター ナガイクミコの海外投資への道 ~イギリス 後編~

イギリス 後編 ~EU離脱後のイギリスの行先~

前回までのあらすじ】
マネービバの編集者・マビーと一緒に長崎大学の笠原教授を取材!
イギリスのポテンシャルに感心するものの、EU離脱後の行方にナガイは疑問を持ち...!?

ナガイ「そもそもEUってなんでできたんですか?」笠原教授「ヨーロッパで戦争が繰り返された原因のひとつが地下資源でした。それを共同管理すれば、揉め事が起こらないだろうと賛同した国が集まったのが始まりです。」「その後、加盟国を増やしながら、名称変更しつつ2018年現在28ヵ国加盟する形のEUになりました。」
笠原教授「はい!アメリカや日本に比べると一国では競争力がないためまとまって対抗しようという考えですね。さらに、社会面まで統一しようという動きが出てきたんです。一つの国のようなイメージですね。」ナガイ「イギリスは保守的なイメージだしイヤだったのかな?」
マビー「結局通貨もポンドのまま通りましたしね!」ナガイ「マビーちゃんと一緒で・・・プライドが高いのかな?」マビー「だぁ~れがプライドが高いんですかぁ!!?」
笠原教授「メディアでは悲観的に取り上げられることが多いですが・・・」「私個人としては割と楽観的にとらえています!」ナガイ「えっ!じゃあイギリスは大ピンチって感じだと思ってたけど違うんですね!」

トピック4「なぜEUを離脱することになったのか!?」

ナガイ
先生、イギリスとしては経済的なメリットって大きかったんですか?
笠原教授
最初の頃は、大いに感じていたようです。でも、だんだんと社会面や政治面まで統合しようとする動きがでてきたんです。そこで、イギリスの主権意識の強い保守党を中心に、EUを離脱する意見がでてきました。
ナガイ
なるほどー。保守的なマインドが強い、伝統を重んじるお国柄ですもんね。
笠原教授
そんな中、2004年に東欧諸国10カ国がEUに追加加盟することになったんです。
当時、新規加盟国に対しては、EU内の移動は7年間制限してもいいという制度が
あったんですが、どういうわけかイギリスは、その制度を適用しなかったんです。
なので、新たに加盟したリトアニアやポーランドの人たちがイギリスにどどっと
流入し始めたんです。
ナガイ
制限したらよかったのに...。
笠原教授
そこで、雇用や、住宅の確保、学校教育現場での負担が多くなり、
移民が大量に来ることへの不満が国民の中に広がっていたんです。
ナガイ
母国語もバラバラだし、英語も話せないし、負担は大きいですよね...。
笠原教授
EU離脱を掲げる右派政党への支持が急速に伸び、与党・保守党もひとつにまとまらなくなってきたため、キャメロン元首相がEU残留か、離脱かを問う国民投票を実施する運びになりました。
キャメロンさんは、あくまでも国民の不満のガス抜き程度と考えていて、イギリス人たちがEU離脱なんていう大胆な選択をするはずがないと思っていたんです。
ナガイ
保守的な国ですもんね。
笠原教授
当時の世論調査でも、大多数が残留という結果だったんです。が、フタをあけてみたら...
離脱票がわずかに上回る結果になってしまったんですね。
キャメロンさんにとっては大きな誤算だったと思います。
マビー
イギリス国民にとっては、身近に感じるストレスを
改善したい気持ちが優先されたのかもしれませんね...。
ナガイ
安易に国民投票を実施したら、思わぬ結果を生んだってことですね。
軽く一杯のつもりでお酒を飲み始めたら、いつのまにか深酒になってベロベロになってしまうみたいな。
マビー
それは、ナガイさんだけです!

トピック5「これからどうなる?イギリスの経済」

ナガイ「きっとイギリスの未来はビールが更に美味しくなってる」笠原教授「正解!!!」マビー「えっ」
ナガイ
EU離脱によるイギリスのダメージってどれくらいあるんですか?
笠原教授
上手く交渉が進んで行けば、影響が少ない可能性もあります。
でも、基本的にネガティブな影響が出るという意見が8割くらいを占めていますね。
ナガイ
多いですね! なんでですか?
笠原教授
ヒト・カネ・モノの移動が自由な、単一市場に入っているメリットがなくなるからです。
マビー
元々イギリスは、経済的なメリットからEUに参加していますもんね。
笠原教授
はい。ただ興味深いのは、EUに加盟している28カ国のうち、加盟前後の経済成長率を比較した結果、加盟が経済成長を促進したのはわずか8カ国だったという米英研究者による報告もあって、それも東欧諸国やバルト三国など、伸びしろが元々あった国々くらいなんですよ。
ナガイ
そんなに少ないんですね!
笠原教授
そこで、今注目されているのは、イギリスがEUとどういった関係性を築いていくかということです。
来年の3月末にイギリスはEU離脱することが決まっていて、2020年12月までが移行期間となっています。
それまでに、今後のEUとの関係をどうしていくのかをEUとイギリスとで合意に導く必要があるんですね。
ナガイ
もうすぐ決めなくちゃいけないんですね!
笠原教授
EUとの関係性を交渉する上で、「ハード」路線と「ソフト」路線があります。
単純化して説明すると、「ハード」な離脱はEUとは完全に離れてしまうこと、
加盟国として享受してきた恩恵を完全に捨てること。
日本とEUと同じような状態ですね。
一方で、「ソフト」な離脱とは、例えば、関税ゼロなどの取り決めを維持するなど
離脱後もEUとのつながりの一部を保っていくという方針です。
マビー
イギリスにとっては、「ソフト」路線のほうがよさそうですね。
笠原教授
ただ、イギリスがEU加盟の美味しい部分だけを温存しようとする姿勢はEUから批判を浴びているんです。
EUは「人、モノ、金、サービス」の自由な移動を大原則としています。
これに対し、イギリスには、移民は規制したいが関税ゼロなどの恩恵は維持したいという思惑があるからです。
交渉の行方は不透明ですが、米中の貿易戦争が拡大するなど国際環境が厳しさを増す中、イギリスもEUも決別する余裕はなく、最終的には離脱交渉の落としどころを見つけ、軟着陸させるのでははないかと考えています。
マビー
それなりにつながっていたほうが、お互いメリットはありそうですね。
笠原教授
離脱支持者の立場はそうではありません。
彼らの主張は、経済・金融分野で規制の多いEUから離れれば、イギリスは経済的に力強く発展できるというものです。
世界の国々とより自由に経済協定を結び「グローバル・ブリテン」を目指すという立場です。確かに、EUには環境や食品安全基準、労働者保護などで規制が厳しい一面があります。
イギリスがEUの規制から自由となれば、得意とするフィンテックなどの金融関連や医薬品開発などで強みを発揮できるという期待感があるのです。

トピック6「次の一歩へと踏み出すイギリスの未来」

マビー「大航海時代!!?」ナガイ「新しいイギリスの船出だぜ!!」
笠原教授
イギリスは金融業が強いという説明をしましたね。機関投資家が毎年とっているアンケートがあって、EU離脱が決まった後に「世界で一番の金融センターはどこですか?」という項目に対して、ロンドンがいつも上位なんです。
マビー
それは理由があるんですか?
笠原教授
ロンドンには、大英帝国の金融センターとしての長い歴史と伝統があります。 産業革命で「世界の工場」となった後、他国が工業で追い付いてくると、今度は金融分野を育てたわけです。
今は、アラブ諸国やロシア、中国など新興国を含め、世界中からマネーが集まってきています。
ナガイ
アラブの大富豪のお金がイギリスに渡っているんですね~。
ほんの少しでいいから私にも預けてくれないかな~。
マビー
預けるメリットがないでしょ!
笠原教授
あと、イギリスは、2017年にフォーブスが発表したデータで、"ビジネスに最適な国ナンバーワン"にもなっているんです。これは、労働力の規模、教育水準、テクノロジー分野の適応、生活の質など、15の基準で判断されています。ビジネスする環境がとても整っているんです。
ちなみに、日本は21位でしたね。
マビー
時差の関係もあるのでしょうか?
笠原教授
そうですね。ロンドンが朝のときに、東京は夕方、ロンドンが夕方のときにはニューヨークが朝です。
つまり、ロンドンは朝始まってから夜終わるまでに、アジアともアメリカとも仕事できるんです。
ナガイ
なるほど~。昼夜問わずやり取りできるんですね。言葉も英語だから通じやすいし。
笠原教授
これからイギリスの人口も30年ほどで約900万人増えるという予想もありますし、日本のようにマーケットが小さくなることはないと思われます。
EU離脱によって、なにかしらのデメリットもあると思いますが、
それに負けない明るい話題だってあるんですよ!
ナガイ
メディアで報じられることはわりとネガティブですけど、少し安心しました!
笠原教授
イギリスは産業革命が起きた国でもあるし、「創造的破壊」を繰り返して新たな展望を開いてきた国です。
楽観的かもしれませんが、EU離脱による不安で、そんなに暗くなることもないのではないかと思っています。
マビー
確かに! むしろ交渉がうまく運べば、どんどん成長していきそうですね。
笠原教授
民主主義が機能不全になっている国が多い中で、EU離脱の是非を問う国民投票をやって、さまざまな議論を戦わせながら、少しずつ前に進んでいるのは、ある意味民主主義の原点みたいなことを、きちんとやっているのではないでしょうか。
これからもイギリス流のやり方で、前へ進んでいくのだろうと僕は思っています!
ナガイ
これからイギリスがどんな方向に成長していくのか、とっても楽しみ~。
マビーさん来月あたりイギリス出張行こうよ! 現地のパブで情報収集してさ。
マビー
イギリスでビールが飲みたいだけじゃないですか! でも、本当に勉強になりましたね。
マビー ナガイ
先生、今日は、ありがとうございました!

マビーのグローバル資産運用レッスン Lesson5 TPPって何?マビーのグローバル資産運用レッスン Lesson5 TPPって何?

TPP(Trans-PacificPartnership 環太平洋パートナーシップ)ナガイ「これもEUに似た考え方だね!」
ナガイ
ねえ、マビーさん。最近、よく聞くTPPってEUと似てるんじゃない?
マビー
するどい質問ですね! ナガイさん、TPPの内容知っていたんですね?
ナガイ
なんかアルファベットとか雰囲気とかが...似ているかな~って!
マビー
中身のことは知らないんですね(呆)
ナガイ
てへ、はりきって解説お願いします!
マビー
TPPとは、「環太平洋パートナーシップ協定」のことで、太平洋を取り巻く国々でグループを作り、輸入する商品に課せられる関税をできるだけ取り払って自由な貿易を実現しよう、という協定です。
なので、EUとTPPは、どちらも地域で結びついた経済的な共同体という意味では共通しています。
ナガイ
ほら、やっぱり似てた!関税がなくなるってことは、海外の商品も安く手に入るかもしれないってことだよね!いいじゃん!
マビー
メリットだけじゃないんです。海外の安い農産物が来ることで、日本で野菜を作っている農家さんがダメージを被る恐れがあります。
農家さんが農業をやめてしまうと、食料自給率が低下することもあります。
もっと言えば、海外の遺伝子組み換え食品や農薬などの規制緩和により、私たちの食の安全が脅かされることも...。
ナガイ
むむむ、それはちょっと心配。じゃあ、やめよう!(キリっ)
マビー
また、極端な...(呆)
現在、国内の産業に大きな打撃がないように、品目ごとに関税をいつ、どの程度削減していくか各国との交渉が続いています。
ナガイ
そっか。うまくいかないと日本も離脱したりするのかな?
マビー
去年、アメリカがTPPから離脱を表明しましたし、日本もその可能性はもちろんありますが、現状では自らリーダーシップをとってまとめていきたいという立場ですね。各国が納得できるルール作りが重要だと思います。
ナガイ
ご近所付き合いでもルールって大事だもんね。
マビー
ナガイさんもルール(締切)、守ってくださいね。
ナガイ
ぎょぎょぎょ!そうきたか(汗)
登場人物紹介登場人物紹介
笠原 敏彦教授

笠原 敏彦教授(長崎県立大学 国際社会学科)

東京外国語大学インドネシア科卒。新聞社時代にロンドン特派員を皮切りに、イギリスのみならず世界中を飛び回る。著作に『ふしぎなイギリス』(講談社現代新書)がある。

趣味:ゴルフと海外のビーチめぐり

ナガイクミコ

ナガイクミコ(イラストレーター)

押しに弱い普通の日本人。どうせ一生独身なので、20年後くらいに海外移住してみたいという夢を漠然と持っている。

特技:マンガやイラストを描くこと

マビー

マビー(マネービバ編集部の敏腕編集者)

帰国子女で日米のハーフ。しっかり者。親の仕事や留学などで、子どもの頃からいろいろな国に住んだ経験がある。

特技:英語など数カ国語を話せること

編集長

編集長(マネービバ編集部の偉い人)

若い頃は、とてもモテたらしい(本人談)。50代相応の落ち着きはあるが行動が突飛で謎の多い人。

特技:投てき(名刺/ダーツ)

【監修】
瀬戸 龍太郎 (せと りゅうたろう)
イギリス情報サイト「ロザリー」編集長。
馬渕 治好(まぶち はるよし)
ブーケ・ド・フルーレット代表。証券アナリスト。
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