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LIFE & MONE ~達人に聞く、人生の哲学~

2019.5.22

美術の達人 横尾忠則【後編】昨日と違うことをすれば人生は挑戦になる

1960年代からグラフィックデザイナーとして日本のポップシーンを駆け抜け、現在も美術家として第一線で活躍する横尾忠則さん。人生100年時代と言われる中、いきいきと充実した人生を歩む達人の仕事に対する哲学、お金に対する価値観とは?今もなお輝き続けるその活力の源を前編・後編を通して探っていきます。

横尾さんは神戸新聞社にてグラフィックデザイナーとして活動後、独立。1980年7月にニューヨーク近代美術館にて開催されたピカソ展に衝撃を受け、「画家宣言」を発表。以降、美術家としてさまざまな作品を制作されています。後編では、現在の創作活動や、これから挑戦していきたいことについて、語っていただきました。



80を過ぎた今も、絵が上手く書けた日は楽しい

―現在も画家として大量の作品を作り続けていますが、毎日、楽しめていますか?

絵が上手く描けた日は楽しいですね。でもちょっとうまくいかないと、その日は面白くない。この感覚は、自分の抱えている仕事をものすごく面白がってやってる人には通じるかもしれません。絵と関係ないほかのものごとで、毎日が楽しいか楽しくないかは僕には測れません。

―描いた絵が売れた時、嬉しいと感じますか?

自分が気に入っている絵が売れるっていうのは、実は嬉しくないんですよ。お気に入りのなかで二番手、三番手の絵を買ってもらうのはいいんですけどね。

その時、一番気に入っている絵をもし買ってもらうとしたら、一流の美術館がいいですね。美術館なら展示してくれるから、多くの人に見てもらえる。絵画は投資の対象として売れることもあるでしょ。それは悪いことじゃないんだけど、美術館は投資の対象としてではなく、純粋にいい絵を欲しがります。そういう意味でも美術館に絵が渡っていくというのは僕にとって悪いことじゃないんです。

生まれ変わる必要がないくらいに今、満足しておきたい

―横尾さんは今、82歳ですがこれからの人生で成し遂げたいことはありますか?また、死についてはどう捉えていますか?

それがないんです。若い頃は多少の目標がありましたけど、今は結果も考えない(笑)。それにあと何年生きるのかも分からないですからね。100歳まで生きる体力があっても、体力だけでものを作れるかどうかは分からない。だからなるべく先のことは考えないようにしているんです。

それでも、僕より若い人たちが次から次へと死んでいく。「もっといい仕事ができたのに」と思う人もいれば、寿命の中でなにかを達成して死んでいく人もいる。だけどそういう人たちがそれ以上生きていたとしても、さらにすごい仕事ができたかどうかは分からない。だからピークで死んでいる人を僕は惜しいとは思いません。

―横尾さんはピカソの展覧会を見て、画家になることを決意したそうですね。あの世でピカソに会ったら聞いてみたいことはありますか?

生きている時の職業を、死んでからも続けるのは不幸だと思いますよ。生きている間にやりたいことを全部、やり終えないとダメ。死んでも未練がましく絵を描いているようでは、もう一回生まれ変わらなきゃいけないですからね。もう二度と生まれ変わりたくないという不退転の気持ちで生きていたいですよ。

生まれ変わる必要がないくらいに今、満足しておきたい。そうじゃないと生まれ変わっても何やったらいいか分からないですから。ピカソもアートのことばかり考えているわけじゃないだろうしね。だから質問なんてしません。

昨日やったこととは違うことを今日はやりたい

―芸術家にとってお金とはどういう存在なのでしょう? お金のことを考えながら作品を作ることはあるのでしょうか?

お金のことを考えながら絵を描くという人もいるかもしれないですね。でも考える時間がないっていう方が多いんじゃないでしょうか。僕ならできるだけ絵のことを考えていたい。嘘じゃなく、一度もお金のことを考えて作品を作ったことはないですね。それは恵まれているということなのかもしれない。

―「挑戦」という言葉の意味を、横尾さんはどう捉えていますか?

毎日、新しいことをやっていかないといけないなと思っているんです。昨日やったこととは違うことを今日はやりたい。そういう意味では毎日、挑戦していますね。どうしてそうしたいのかは、好奇心なのか何なのか。よくわかりません。でも新しいことは、しばらくすると古くなってしまう。だから常に新しいことを見つける必要があるんでしょう。

80歳を過ぎても制作活動に取り組み、「生まれ変わる必要がないくらいに今、満足しておきたい」と語る横尾さん。好きなことに夢中になったり、自分の好奇心をおもしろがったり、昨日と違うことをやってみる。そんな日々の挑戦が、人生を充実させるためのヒントなのかもしれません。こんな人生の楽しみ方を考えてみてはいかがでしょうか。

Twitter上で、「#横尾さんに質問」がつけられた投稿をピックアップ。
読者から寄せられた質問を横尾さんにぶつけてみました!

今、一兆円をもらえるとしたら何に使いますか?
今、言われてもすぐ考えつかないですけど、どこかに寄付するかって言われるとそうでもないし。うーん、なんだろうね、どら焼きは好きだけど、そんなにたくさん食えないし。昔、フリーになった直後、宇野亜喜良さんと事務所を構えてね。その頃、僕も宇野さんも全然、仕事がこなかった。暇だから毎晩、もし一千万円もらったらどう使うかっていうのを考えて、紙に書いたりしてましたね。ベルリン・フィルを呼びたいとか、ニューヨーク・フィルとどっちが安いかなとか。毎日、そんなことばかりやってました。昔も今も、そんな大金の使い道はよく分からないです。
横尾 忠則(よこお ただのり)
1936年兵庫県出身。美術家。1972年にニューヨーク近代美術館で個展。その後もパリ、ヴェネツィア、サンパウロ、などのビエンナーレに出品し、アムステルダムのステデリック美術館、カルティエ財団現代美術館(パリ)、ロシア国立東洋美術館(モスクワ)での個展など世界各国の美術館で個展を開催。2012年、神戸に横尾忠則現代美術館開館。2013年、香川県豊島に豊島横尾館開館。作品は国内外多数の主要美術館に収蔵されている。2011年朝日賞、2015年高松宮殿下記念世界文化賞受賞。2008年小説「ぶるうらんど」で泉鏡花文学賞、2016年「言葉を離れる」で講談社エッセイ賞受賞。2019年5月31日から谷中のスカイ・ザ・バスハウスにて個展(7月6日まで)、5月25日から横尾忠則現代美術館にて「人食いザメと金髪美女--笑う横尾忠則展」を開催予定(8月25日まで)。
http://www.tadanoriyokoo.com
※2019年5月時点の情報です。

撮影:濱田英明