民法では、相続に関するトラブルを防ぐために「相続法」で基本的なルールが定められています。2018年7月、約40年ぶりとなる大きな改正が行われた相続法ですが、その主な改定部分が、2019年7月1日からスタートします。何がどう変わるのか、主な改正ポイントを改めて整理しておきましょう。

あなたも課税対象かも!? 相続税がかかる人が増加

2015年より、相続税の基礎控除(相続税がかからないボーダーラインの金額)が縮小しました。かつては、遺産総額が<5,000万円+(1,000万円×法定相続人数※)>までは相続税がかかりませんでしたが、最近ではそのラインが下がり、<3,000万円+(600万円×法定相続人数)>までとなりました。たとえば、相続人数が妻のみの場合は、6,000万円⇒3,600万円で、2,400万円の縮小。相続人数が妻と子供2人で3人の場合は、8,000万円⇒4,800万円へと、3,200万円の縮小です。
  • 法律で定められた財産を受け継ぐ権利のある人数
この影響は顕著に現れており、2014年から2015年にかけて、被相続人(財産を遺して亡くなる方)の数自体はさほど変化がないのに対し、課税対象者数は倍増しました。
高齢化が進む中、残された配偶者の生活を保護する観点から、2018年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法もほぼ40年ぶりに改正されました。改正は、一部を除き、2019年7月1日から施行されます。

遺産分割前でも、預金の引き出しが可能に

これまで、亡くなった人の預貯金を、遺産分割(遺産をどう分けるかを決める)の前に引き出すことはできませんでした。そのため、残された家族などの相続人は、当面の生活費や葬儀費用、亡くなった人の債務返済などを、一時的に立て替えざるを得ない状況でした。

相続法改正以降は、各口座ごとに、法定相続分の1/3までの預貯金(最高150万円まで)については、遺産分割協議が整う前でも、仮払いを受けられるようになります。たとえば、亡くなった夫の口座に600万円の預金があり、法定相続人が妻と子供2人の場合、妻は600万円×1/3×1/2=100万円までは、仮払いが受けられます。
また、他の相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断によっても仮払いが認められることになります。

婚姻20年以上がカギ! 夫婦間の自宅贈与は遺産分割されない

改正前の制度でも、婚姻20年以上の夫婦の一方が、自宅や、自宅取得資金を贈与した場合、2,000万円までは控除があり非課税です。しかし、遺産分割の際には、この贈与分も相続財産に戻して、遺産分割が行われていました。そのため、配偶者の最終的取得金額は、贈与があってもなくても変わらない結果になっていたのです。

しかし、2019年7月の改正以降は、この制度を利用して夫婦間贈与を行った場合、相続財産に戻して遺産分割を行う必要がなくなり、配偶者に、より多く相続財産が残せることになります。

たとえば、相続人が妻と子供2人で、相続財産が自宅(2,000万円)と預金(2,400万円)の合計4,400万円だったとします。夫婦は結婚20年以上で、夫は亡くなる前に自宅を妻に贈与。改正前では、夫が亡くなってから法定相続分通り分割すると、妻の相続分は1/2で2,200万、子供2人はそれぞれ1,100万円ずつです。
これが改正後であれば、贈与した自宅分は遺産分割されないので、妻は自宅2,000万円(贈与)+預金1,200万円の合計3,200万円、子供2人はそれぞれ預金600万円ずつ相続されることになります。

介護や看病に貢献した親族は、金銭請求が可能に

今回の改正によって、亡くなった人(相続人)の介護や看病を、法定相続人でない親族が無償でしていた場合、相続人に対して金銭を請求できるようになります。

たとえば嫁や婿、甥や姪といった立場で介護や看病に貢献した場合、これまでだと、被相続人と養子縁組をしたり、贈与を受けるといった方法を取らない限り、金銭的に報われることはありませんでしたが、改正以降は、介護や看病に携わった「特別寄与者」として、相続人に対して「特別寄与料」を請求できるようになります。

他にも注目したい、2つの改正項目

7月からの改正ではないものの、相続法改正で押さえておきたいポイントは他にもあります。

自筆証書遺言が使いやすくなる(2019年1月13日から)
これまで全文を自筆で書かなければ無効とされていた自筆証書遺言ですが、財産目録に限り、自書の必要がなくなりました。パソコン等で作成して印刷したものや、預金通帳のコピー、不動産の登記事項証明書等を目録として添付して、自筆証書遺言を作成することができるようになります。さらに、2020年7月10日からは、作成した自筆証書遺言を、法務局に保管してもらう制度も始まります。

「配偶者居住権」の新設(2020年4月1日から)
財産を遺して亡くなる方(被相続人)の配偶者が、被相続人が所有する建物に住んでいた場合、終身または一定期間、無償で使用することができる権利として、「配偶者居住権」が新しく作られます。建物に関する権利を「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分け、遺産分割の際に、配偶者が「配偶者居住権」を、他の相続人が「負担付き所有権」を取得します。

まとめ

2019年7月以降は、相続法が大きく変化します。家族で相続や介護について話し合う際には、今後の相続法の改正の内容も押さえておきましょう。親のこと、自分のことを含め、相続財産の多い少ないにかかわらず、相続に関する知識を持つことが大事な時代といえます。不動産を含む場合や金額が大きい場合のように大変複雑な相続もあります。困った際は、税理士に相談してみましょう。

  • 2019年5月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

豊田 眞弓(とよだ まゆみ)

ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、相続診断士。FPラウンジ代表、短大非常勤講師。マネー誌ライター等を経て、94年より独立系FP。現在は、個人相談のほか、講演や研修、マネーコラムの寄稿などを行う。「夫が亡くなったときに読む本」(日本実業出版社)、「50代・家計見直し術」(実務教育出版)など著書多数。

企業型イデコ知らないと損? DC+iDeCo確定拠出年金制度が2022年10月に改正されました!

シリーズの記事一覧を見る

関連記事

相続・贈与,節税