まもなくやってくる「2025年問題」

2025年は、人口の多い「団塊の世代」が、要介護率・入院率が高くなる後期高齢者(75歳以上)に達し始める年です。約5人に1人が75歳以上という超高齢社会となり、要介護(要支援)認定者数は約815万人に達する見通しです。こうした状況から介護・医療費などの社会保障費の急増が懸念されています。

介護費については、介護保険の利用者は料金の1〜3割を負担し、残りは介護保険から介護給付費としてサービスを提供した事業者に支払われます。この介護給付費も拡大するとシミュレーションされています。第6回経済財政諮問会議資料によると、2018年に10.7兆円(医療費含め約50兆円)だった介護給付費は、2025年には14.6兆円(医療費含め約63兆円)まで拡大する見通しです。

さらに、2042年に65歳以上の高齢者の数がピークを迎えると推計されていますが、2040年度の介護給付費は24.6兆円(医療費含め約94兆円)まで肥大化する見込みです。

【図@】高齢化の推移と将来推計
  • 内閣府「令和元年版高齢社会白書」をもとに編集部作成

特に都市部において、高齢人口が急速に増加すれば、特別養護老人ホームなど公的な介護施設が不足し、要介護状態になっても施設に入れず在宅介護となる人が増えることが予想されています。

こうした「2025年問題」の解決策として国が推進しているのが、「地域包括ケアシステム」。日常生活に介護が必要な要介護状態となっても、住み慣れた場所で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムです。
「地域包括ケアシステム」のサービス拠点からおよそ30分圏内に自宅があれば、自宅にいながら訪問医療や訪問介護などを受けることができることから、今後の重要なインフラになると注目されています。

介護は「ある日突然」が3割!?

介護が必要になる原因で最も多いのは男女総数で見ると、「認知症」です。次いで、「脳血管疾患(脳卒中)」「高齢による衰弱」「骨折・転倒」「関節疾患(リウマチなど)」と続きます。男性では「脳血管疾患(脳卒中)」が飛び抜けて多く、女性では「認知症」が最も多いというのが現状です。

介護が必要になった原因のうち、じわじわと進行する「認知症」や「高齢による衰弱」と異なり、「脳血管疾患(脳卒中)」や「骨折・転倒」は突然起こることがほとんどです。介護が必要になった人のおよそ7人に1人は脳血管疾患が原因で、これに「骨折・転倒」をプラスすると3割弱(約27.6%)。約3割の人は、急に介護が必要な状況になっているということです。つまり、親や家族の介護に、突然直面する可能性があることも知っておきましょう。

もしも親が倒れるなどして入院し、退院と同時に要介護状態になるとわかったら、冷静に情報を集め、入退院後の体制を整える必要があります。介護保険サービスを受けるために必要な要介護認定を受けるには、介護保険の申請日から30日程度かかりますので、場合によっては入院中に申請をすることも大事です。

【図A】65歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった主な原因

介護離職者10万人時代の到来

総務省「平成29年就業構造基本調査」によると、親や配偶者等の介護や看護のために仕事を辞める人は1年間で約9.9万人。8割近くが女性ですが、男性の割合も増えつつあります。

介護離職(離職後の転職も含む)をした人の実態を調査した厚生労働省「平成24年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によると、「経済面の負担が増した」(74.9%)が最も多く、「精神面の負担が増した」(64.9%)、「肉体面の負担が増した」(56.6%)よりも高くなっています。精神面・肉体面でも大変になるものの、それ以上に経済面での負担が大きくなるようです。

このデータから見ても、介護を優先して40〜50代で離職・転職をした場合の影響は小さくはないでしょう。特に、都市に出て親と離れて暮らしている場合は、地元に戻って同程度の収入の仕事に就くことはかなり難しいはずです。子どもがいれば、教育費もかかる年代でもあり、仕事を辞める・転職をするといった選択は、子どもの進路や家族のライフプランにも影響しかねません。

また、親の介護に関して、兄弟姉妹がいる場合は、誰がどう介護を担うのかなど、親や兄弟姉妹で話し合っておく必要があります。親が自身の資産でケア付き有料老人ホームに入る場合も、資産状況を把握して中長期の費用をまかなえるかどうかを確認しておきたいもの。在宅介護を行う場合は、兄弟姉妹が交代で実家を訪ねてサポートするなど、特定の1人に負担がかからないように体制を整えておくことが大事です。

仕事と介護を両立するポイント

政府は働き方改革の中で、「介護離職ゼロ」を目標に掲げています。その方策として、「仕事と介護両立のポイント」を次の6つにまとめています。

  • 職場に「家族等の介護を行っている」ことを伝え、必要に応じて勤務先の「仕事と介護の両立支援制度」を利用する
  • 介護保険サービスを利用し、自分で「介護をしすぎない」
  • 介護保険の申請は早目に行い、要介護認定前から調整を開始する
  • ケアマネジャーを信頼し、「何でも相談する」
  • 日頃から「家族や要介護者宅の近所の方等と良好な関係」を築く
  • 介護を深刻に捉えすぎずに「自分の時間を確保」する

また、育児・介護休業法で「仕事と介護の両立支援制度」という制度が定められています。具体的には、以下のような支援があります。くわしく知りたい方は、厚生労働省のホームページ「育児・介護休業法について」をご覧ください。

仕事と介護の両立支援制度

介護休業

労働者は申し出ることにより、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として、介護休業を分割して取得することができます。

介護休暇

要介護状態にある対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、1日単位または半日単位で取得できます。

時間外労働の制限

1回の請求につき1月以上1年間の期間で、1カ月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働の制限を請求することができます。請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要なときに利用することが可能です。

介護休業給付金

雇用保険の被保険者が要介護状態にある家族を介護するために介護休業を取得した場合、一定の要件を満たせば、介護休業開始時賃金月額の67%が支給されます。

  • 出典:厚生労働省「仕事と介護の両立支援ガイド(企業向け)」

これらのほかにも、企業によっては独自の制度を設けているところもあります。職場で利用できる制度について確認しておきましょう。

なお、職場の就業規則に制度が明記されていなくても、介護休業、介護休暇、所定外労働・時間外労働・深夜業の制限は、職場へ申し出ることで利用できます(ただし、勤務先の労使協定の定めによっては、勤続年数が少ない場合は取得できないこともあります)。万一、家族の介護を理由に退職勧奨を受けた場合は、都道府県の労働局・雇用環境金均等部などへ相談しましょう。

介護が必要になる前にお金と知識の備えを

家族の介護に関わる可能性は誰にでもあります。自分が介護に関わることになったときには、離職・転職をできるだけ回避できるよう、介護保険制度や仕事と介護の両立支援制度などの知識を備えておくことが必要です。

先述のように、介護を優先して、正社員からアルバイトなどに働き方を変えれば、経済的な負担も大きくなる可能性があります。そうした場合もゆとりを持って生活できるよう、ある程度の資金を準備しておくことも大切です。早くから少額でも積立投資などで資産形成をして備えておくのもひとつの方法ではないでしょうか。

また、親の介護にかかる費用については、下記の記事もあわせてご覧ください。
いざというときのために、今できることを始めておきましょう。

  • 2020年1月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

豊田 眞弓(とよだ まゆみ)

ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、相談診断士。FPラウンジ代表。マネー誌ライター等を経て、94年より独立系FP。現在は、個人相談のほか、講演や研修講師、マネーコラムの寄稿などを行う。大学・短大で非常勤講師も務める。「親の入院・介護が必要になったときいちばん最初に読む本」(アニモ出版)など著書多数。座右の銘は「今日も未来もハッピーに!」。

webサイト:https://happy-fp.com/backstagemezasu/toyoda.htm

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