「人生100年時代」と言われる中、高齢期の働き方が大きく変わってきています。今や会社員は、フリーランスや起業といった選択肢も含め、希望すれば70歳まで働ける時代になりました。
私たちの働き方や定年後の資産形成プランにどのような影響があるのか、「70歳雇用」について知っておきましょう。
増える、65歳以上の就労者数
セカンドライフが長くなる「人生100年時代」。厚生年金の給付水準が下がっていくことから、安心の老後生活を送るためにも、高齢期の働き方が重要になっています。
総務省が発表した「労働力調査」によると、65歳以上の就労者数は年々増加。2021年には912万人で過去最高を更新しました。男性はもちろん、女性の就労者数も増えています。
出典:総務省「労働力調査」(年平均)
また、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、老後における生活資金源
※1として、「就業による収入」を挙げた割合が、2011年は約26%であったのに対し、2021年には約31%と増加。
60歳以降の生活費を「就業」でまかなう傾向が高まっていることが分かります。
※1 世帯主が60歳以上の2人以上世帯/複数回答。
高齢者が働くことで、日本全体としては、人手不足を補うとともに、年金や健康保険料を納める側となってもらうことで社会保障制度の担い手を増やすというメリットもあります。
働き方の選択肢が増え、70歳まで働けるようにすることが企業の努力義務に
シニア層、子どもや子育て世代、現役世代まで広く安心を支えていくための「全世代型社会保障改革」の一環として、70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする「改正高年齢者雇用安定法」が2021年4月1日に施行されました。働く意欲のある高齢者は支え手に回ってもらい、前述したように社会保障制度を保つ狙いです。
以前の「高年齢者雇用安定法」では、企業は希望者全員を65歳まで雇うことが義務付けられていました。
「改正高年齢者雇用安定法」では、65歳までの雇用確保(義務)に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、以下のいずれかの措置を講ずる「努力義務」が新設されました。意欲のある人が長く働ける環境を整えるために、以下のとおり選択肢が多くなっています。
1.70歳までの定年延長
2.定年制の廃止
3.70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
※24.70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5.70歳まで事業主が実施・委託等をする社会貢献事業に継続的に従事できる制度の
導入
※2 特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む。
出典:厚生労働省(パンフレット・詳細版)「高年齢者雇用安定法改正の概要」
民間の動きに合わせる形で、2021年6月、国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる「改正国家公務員法」が成立しました。現在60歳の公務員の定年を2023年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2031年度には定年が65歳になります。検察官、防衛省の事務官などについても同様に引き上げられます。
また、2023年4月1日より、60歳以上の職員給与は従前の7割に抑えられます。60歳になると原則、管理職から外れる「役職定年制」も導入されます(公務に支障が生じる場合に限り留任を認める例外規定もある)
※3。
※3 出典:内閣人事院「国家公務員法等の一部を改正する法律案の概要」
これからの高齢期の働き方はどう変わる?
高齢期の働き方に関わるものとして、「在職老齢年金」という仕組みがあります。60歳以降に、働きながら受け取る老齢厚生年金のことです。毎月受け取る厚生年金受取額(加給年金は含まず)と賃金に応じて年金額は減額され、場合によっては全額支給停止になります。
年金制度改革により2022年4月1日から、60歳以上で、毎月の厚生年金受取額と賃金の合計額が月47万円を超える場合には毎月の厚生年金受取額が減額されることになりました。
出典:厚生労働省「年金制度改正法の概要」をもとに筆者作成。
また、同じ時期に実施された年金制度改革の1つで、老齢年金の繰下げ受給について、上限となる年齢が70歳から75歳に引き上げられました。1ヵ月繰り下げると年金額は65歳時点の基準額の0.7%増となり、75歳から公的年金を受け取る場合は同基準額の1.84倍になります。
こうした改正により、今後は、何らかの形で70歳まで働き、70~75歳で公的年金をもらい始めるという人が増えてくることでしょう。
「人生100年時代」を見据え、「リタイア後」の期間をできるだけ短くして、自分の資産寿命を延ばしていくことが大事になってきます。
今後は、自分自身が働くこととともに、お金や資産に働いてもらうことの2本だてで考えてみてはどうでしょう。
老後資金の準備なら、個人型確定拠出年金(iDeCo)やつみたてNISA(少額投資非課税制度)がおすすめです。計画的にはじめてみてはいかがでしょうか。
※この記事は2020年6月3日に公開した内容を、2022年6月1日に内容を変更して掲載しています。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
執筆:ファイナンシャルプランナー 豊田 眞弓(とよだ まゆみ)