□アメリカの億万長者(ミリオネア)は意外な人たちだった □心から愛することができる仕事に出会う □買い物上手こそ、お金持ちへの道

アメリカの億万長者(ミリオネア)は意外な人たちだった

本書の著者であるトマス・J・スタンリーは、純資産100万ドル(およそ1億1,000万円)以上のアメリカの富裕層を対象に、大規模なアンケートを実施しました。
その結果明らかになった億万長者の実像は、ハリウッド映画でよく描かれる、豪邸に住み、高級百貨店で買い物三昧にふけるような紋切り型の大金持ちとはかけ離れたものでした。

大多数は中古住宅に住み、格安店でクーポン券を使って買い物をするような、堅実な生活を好む人たちだったのです。

さらに意外だったのは、億万長者たちの学生時代の成績です。その多くは、優秀な成績だったわけではありませんでした。
それどころか、劣等生も少なくなかったのです。

では、一体何が彼らを億万長者にしたのでしょうか?

筆者が行った調査では、億万長者たちに学校での成績や性格、信条、生活習慣などについての30の項目を提示し、それらが経済的成功を収めるうえで「非常に重要」「重要」「あまり重要でない」のどれに該当するかを選ばせています。

億万長者たちが最も重視した要素は、次の5つでした。

  • @誠実(誰に対しても正直であること)
  • A自己鍛錬(自分で自分をコントロールすること)
  • B社会性(人とうまくやっていくこと)
  • C配偶者の支えがあること
  • D勤勉(ふつうの人より一生懸命働くこと)

億万長者たちは、一言で言えば「努力家であり、人に慕われ、尊敬される人たち(あるいはそうなろうと努めている人たち)」だと言えるでしょう。

本書には、劣等生だったコンプレックスをバネに懸命に働き、自己鍛錬を怠らなかった億万長者や、学生時代に力を入れたクラブ活動や社会奉仕活動を通して社会性を伸ばした億万長者のエピソードがいくつも盛り込まれています。

それにしても、学生時代の成績は本当に重要ではないのでしょうか。
一流の大学を優秀な成績で卒業することが億万長者への近道だと考える人は、日本でもアメリカでも少なくないはずです。

著者は、試験の点数は重要ではないと断言します。
それどころか、ガリ勉の秀才タイプであるが故に、成功への階段を踏み外してしまうことも少なくないと指摘し、一流大学の医学部を卒業した医師のエピソードを紹介します。

彼は優秀な医師でしたが、怪しげな投資セミナーの誘いに引っかかって150万ドルの資産を失ってしまいました。
学生時代に勉強ばかりしていた彼は、社会経験が不足しており、「人を的確に判断する能力」を磨けなかったのです。
加えて、自分は優秀であるという自負心から、周囲の助言に耳を傾けませんでした。

学生時代の勉強は、もちろん大切です。
しかしそれだけでなく、クラブ活動や社会奉仕活動を通して社会性を育むことがいかに重要であるかを本書は教えてくれます。

心から愛することができる仕事に出会う

医者や弁護士、公認会計士のように社会的ステータスが高く、高給を保証された職業に憧れを持つ人は多いでしょう。

しかし、調査によると、多くの億万長者たちの職業は自営業者でした。
それも、中古トラックの部品販売業や金物店チェーンのオーナー経営者など、他人があまり手がけないビジネスに着目し、起業した人が少なくなかったのです。

著者は、こうした社会的ステータスにとらわれない職業選択こそ、億万長者になる上で合理的だと指摘します。
他人があまり手がけないビジネスは競争相手が少なく、成功する確率が高いからです。

実際、中古トラックの部品販売業を営むオーナー経営者は、同じ地域に競争相手がいないことを確かめた上で事業に乗り出し、財を成しました。
加えて、彼らは自分たちの仕事を心から愛しています。
自ら育て上げた事業だけに、愛着が人一倍あるのでしょう。

一方、医者や弁護士、公認会計士などの職業は、人気がある分、優秀な競争相手が多く、成功のための戦い(顧客獲得競争)は熾烈にならざるを得ません。

職業選択で成功するためには、時に社会的ステータスへのこだわりから自由になり、成功の確率が高く、かつ心から愛せる仕事を探すことが重要でしょう。

買い物上手こそ、お金持ちへの道

冒頭でも触れたように、億万長者というと豪奢な生活を送っているイメージがありますが、実際には多くが無駄遣いをしない倹約家です。

と言っても、いわゆる「安物買い」ではありません。
一時の損得にとらわれず、長い目で見た時に損か得かを考えて合理的に選択する買い物上手なのです。

例えば、億万長者の多くは高級な靴を好みます。
品質の良い高級な靴を、靴底を張り替えながら履き続けた方が、安価な靴を買い替えるよりも長い目で見ると安上がりだからです。

家具も同様です。
一時の出費を惜しんで安価な家具を買うよりも、品質の良い高級家具を家族3代で使い続ける方が、結果的に安く済むことを億万長者たちはよく知っています。

さらに、クーポン券などの利用にも積極的です。
「億万長者なのになぜクーポン券を?」と思いますが、クーポン券を使って倹約したお金を運用すれば、長い目で見たら多額の資産を形成できるのです。

アメリカでは、成人してから生涯の間に使う生活費は40〜60万ドルと言われています。
そのうちの5%、つまり2万ドルから3万ドルを節約して、そのお金を運用すれば、老後を迎える頃には数十万ドルの資産が積みあがるはずです。

億万長者たちは、節約すべきところは節約し、高いコストを払っても結局安くあがるものは “本物”を長く使い続け、資産形成に役立てているのです。

渋谷和宏のコレだけ覚えて

長期的視点がミリオネアの習慣につながる

本書が明らかにしたアメリカの億万長者たちの生活習慣や信条に触れると、彼らがお金の価値をいかによく理解しているかが分かります。

億万長者の中に、維持費がかかる新築の豪邸に住んでいる人はほとんどいません。
洋服や自動車にしても見栄を張らず、コストパフォーマンスを重視します。
クーポン券を上手に使い、毎月一定金額を必ず浮かせるように工夫します。

どんなに稼いでいても、お金を湯水のように使っていてはミリオネアであり続けられないと理解しているのです。

そして、そのように節約して浮いたお金を長期的視野で運用し、資産を増やしています。

資産1億円への道に、近道はありません。
お金は上手に使い、浮いたお金を「長期」「つみたて」「分散」運用する──本書に登場する億万長者たちは、賢く地道にお金と付き合うことの大切さを教えてくれている気がします。

  • 2020年4月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
渋谷 和宏

渋谷 和宏

しぶやかずひろ/作家・経済ジャーナリスト。大学卒業後、日経BP社入社。「日経ビジネスアソシエ」を創刊、編集長に。ビジネス局長等務めた後、2014年独立。大正大学表現学部客員教授。1997年に長編ミステリー「錆色(さびいろ)の警鐘」(中央公論新社)で作家デビュー。「シューイチ」(日本テレビ)レギュラーコメンテーターとしてもおなじみ。

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