2022年10月から、75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」の改正により、一定の所得のある高齢者の医療費自己負担が1割から2割へと引き上げられました。
どのような世帯が2割負担の対象となったかを確認するとともに、老後資金の備えについて改めて考えてみましょう。
自己負担が1割から2割に! 「後期高齢者医療制度」が改正
後期高齢者医療制度は、75歳以上の人全員と、65歳~74歳で寝たきりなど一定の障害がある人が加入する制度です。改正前は、治療や投薬を受けたときの自己負担割合は原則1割、所得の多い世帯は3割となっていました。
2022年10月から、1割負担だった人のうち、一定以上の所得がある人の自己負担割合が2割となり、3段階の区分に変更となりました。
後期高齢者医療制度の被保険者の約20%が変更対象となり、病院や薬局で支払う医療費が増えることになります。
出典:厚生労働省「後期高齢者医療制度改正の周知広報用リーフレット」
対象となる世帯とは? 2割負担となるかどうかは、世帯単位で決定
後期高齢者の自己負担割合は、世帯で最も所得が高い後期高齢者を基準として、世帯単位で決定されます。
●課税所得145万円以上の場合は、3割負担
課税所得145万円以上の「現役並み所得者」に該当する後期高齢者がいる世帯は、これまで同様、世帯全員が3割負担となります。
●課税所得28万円以上145万円未満の場合は、2割負担または1割負担
・2割負担になる世帯
以下のいずれかに該当する場合に、自己負担割合が2割となります。
①世帯内に後期高齢者が2人以上いる場合「年金収入+その他の合計所得金額」が320万円以上
②世帯内の後期高齢者が1人の場合「年金収入+その他の合計所得金額」が200万円以上
・1割負担になる世帯
課税所得28万円以上145万円未満の後期高齢者がいても、上記①②のいずれにも該当しない世帯は、1割負担のままです。
●課税所得が28万円に満たない場合は、1割負担
世帯で最も所得が高い後期高齢者が、課税所得28万円未満の場合は、世帯全員が1割負担となります。
※1 後期高齢者医療の被保険者とは75歳以上の方と65~74歳で一定の障がいの状態にあると広域連合から認定を受けた方です。
※2 「課税所得」とは住民税納税通知書の「課税標準」の額(前年の収入から、給与所得控除や公的年金等控除等、所得控除(基礎控除や社会保険料控除等)等を差し引いた後の金額)です。
※3 「年金収入」には遺族年金や障害年金は含みません。
※4 課税所得145万円以上で、医療費の窓口負担割合が3割の方です(一定の基準・要件を満たす場合、窓口負担割合が1割または2割になるケースがあります)。
※5 「その他の合計所得金額」とは年金収入以外の事業収入や給与収入等から、必要経費や給与所得控除等を差し引いた後の金額のことです。また、給与所得がある場合は、給与所得金額から10万円を控除します。
出典:厚生労働省「後期高齢者医療制度改正の周知広報用リーフレット」
2021年の課税所得や年金収入をもとに2割負担と判定された世帯は、2022年10月~2023年7月までの間、自己負担割合が2割となります。来年以降は、前年の所得を基準に、8月~翌年7月の自己負担割合が決定されます。
なお、新たに2割負担となる人には、施行後3年間(2025年9月まで)は、自己負担割合引き上げによる1ヵ月の負担増加額を3,000円以内に抑える配慮措置があります(入院の医療費は対象外)。
年金受給時期など、リタイアメントプランへの影響も
負担が1割から2割になるので、単純に考えれば、対象となる世帯にとっては病院や薬局で支払う医療費が2倍になるということです。
ただし、
後期高齢者にも高額療養費制度※6があるので、実際には医療費が2倍にならないこともあります。とはいえ、定年後の家計にとってマイナスの影響があることに変わりありません。
※6 1割・2割負担の場合、外来の自己負担限度額は、個人ごとに月あたり1万8,000円(年間14万4,000円、住民税非課税世帯を除く)となる制度。
また、年金の受給開始時期の検討にも影響がありそうです。
老齢年金は受給開始を65歳より遅らせると1ヵ月当り0.7%増額されます。そのため、受給開始を遅らせ、受け取れる年金額を増やすことは、長生きすることで老後の資金が足りなくなり、生活が経済的に困窮する“長生きリスク”への有効な対策となります。
しかし、上記のとおり年金収入の額が医療費の自己負担割合を決める基準になるので、年金受給時期を検討する際に、この点を考慮する必要が出てくることもあるでしょう。
私たちの暮らしはどう変わる?
今回の改正は、現役世代の負担を抑え、国民皆保険制度を継続させていく狙いがあります。現役世代とのバランスをとって、高齢者の負担が増えていくことは今後もありえるでしょう。
同様に、老後収入の柱である公的年金の支給水準も、相対的に低下していく可能性があります。
現役時代に、早くから老後に備える重要性が一層増してきており、将来的なインフレーション(インフレ)リスクへの対策も含め、長期積立投資を始めることは選択肢の1つです。
老後資金の準備に活用できる税制優遇制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)があります。掛金は最長65歳まで拠出でき、運用も75歳までできるようになりました。現役時代からできる備えとして、活用を検討してみてください。
※2022年10月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
- 執筆:歌代 将也(うたしろ まさなり)
- ファイナンシャルプランナー(CFP®)、社会保険労務士。妻と子ども2人、住宅ローンありという普通のサラリーマンから、「うたしろFP社労士事務所」代表に。社会保険、マネー関連記事の執筆・監修やセミナー講師などを行い、お金のことで必要以上に不安を感じることなく、楽しく働き続けたい人と会社をサポートしている。
うたしろFP社労士事務所:https://uta-fpsr.com