住宅ローンを組んで住宅の新築や取得、増改築などをした人が、所得税や住民税から控除を受けられる、「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」。
2022年度の税制改正で、対象となる借入限度額や控除額を計算するための控除率、控除金額の上限などが変更になりました。住宅ローンを組んだ人やこれから組むという人は要チェックです。くわしくみていきましょう。
▼改正前の制度で2021年末までに契約した方が適用される住宅ローン控除についてはこちら
住宅ローン控除とiDeCo、併用の場合は「減税額」に注意! 節税の仕組みを解説
2022年度の税制改正で住宅ローン控除はこう変わった
住宅ローンを利用して住宅の新築・取得などをした場合、年末の住宅ローン残高に一定の控除率をかけた金額を所得税から控除できる、住宅ローン控除。所得税で控除しきれない分は、翌年の住民税から控除を受けることができます。
まずは、2022年の税制改正後の住宅ローン控除について確認しておきましょう。
2022年1月以降の契約における住宅ローン控除の概要は下の図表のようになりました。
住宅ローン控除が適用される住宅の種類が細分化され、環境に優しい住宅ほど控除枠が拡大したほか、控除率、控除期間などが変更されました。
※1 宅建業者により一定の増改築等が行われた一定の居住用家屋。
※2 2023年末までに建築確認を受けていれば、限度額2,000万円、期間10年。
※3 所得税で控除しきれなかった場合。
※4 ZEH(ゼッチ)とはゼロ・エネルギーハウス(net Zero Energy House)の意で、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」。
出典:国交省サイトを参照し、筆者作成
主な適用要件
・自らが居住する住宅
・床面積50㎡以上(2023年末までに建築確認を受けた新築住宅の場合、合計所得1,000万円以下は40㎡以上)
・合計所得2,000万円以下
・住宅ローンの借入期間が10年以上
・引越しまたは工事完了から6ヵ月以内に入居
・1982年以降に建築または現行の耐震基準に適合
主な変更点をくわしく見ておきましょう。
●住宅ローン控除の適用期限
住宅ローンの適用期限が2021年から2025年までの4年間、延長されました。
●控除率
改正前の控除額は、「住宅ローン残高の1%」だったものが、「0.7%」に引き下げられました。引き下げられた理由は、1%を割り込む低金利で借りている人が増え、支払う利息より住宅ローン控除の方が大きくなる「逆ざや」が問題になったためです。
●控除期間
改正前は、控除期間は「原則10年(所定の要件を満たしたときのみ13年)」でしたが、2022年度から、「新築住宅等は原則13年」、「既存住宅(中古住宅)は10年」と変更になりました。既存住宅であっても、業者による買取再販(宅建業者により一定の増改築等が行われた一定の居住用家屋)は新築と同じ扱いとして明記されました。
そのほかにも、減税規模、住民税からの控除額上限、適用対象者の所得要件、既存住宅の築年数要件など、以下のように変更になっています。
※5 「長期優良住宅」と「低炭素住宅」。それぞれ、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅と、二酸化炭素の排出を抑えるための対策が取られた環境にやさしい住宅として、一定の基準をクリアし、認定を受けた住宅。
※6 住宅ローン減税が適用となるローン契約者の所得の要件で、各種所得金額を合計した金額(繰越控除適用前)。土地・建物の譲渡所得なども含まれる。要件を満たしている年のみ適用になる。
出典:国交省サイトを参照し、筆者作成
今回の改正は、住宅ローン控除とiDeCoの併用にどう影響する?
住宅ローン控除のように、所得税・住民税から控除できる制度の1つとして、iDeCo(個人型確定拠出年金)があります。今回の改正によって、住宅ローン控除とiDeCoを併用した際、どのような影響があるのでしょうか。
まずは住宅ローン控除とiDeCoの控除の違いについて整理しておきましょう。両者は併用できますが、控除のされ方が異なります。
住宅ローン控除は、実際の計算上では「税額控除」となります。「税額控除」は所得税額が算出された後に差し引かれます(下図参照)。
一方、iDeCoの掛金は「所得控除」です。「税額控除」よりも先に計算されます。
iDeCoの掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として全額が控除され、所得税と住民税(所得割額)を算出する際に、それぞれの所得から差し引いて計算をします(下図参照)。
なお、保育料や児童手当、高校無償化などの判定は住民税額で行われています。小規模企業共済等掛金(iDeCo掛金など)や医療費控除、生命保険料控除などの「所得控除」は判定に影響するものの、住宅ローン控除は影響しません。

住宅ローン控除とiDeCoの控除の違いが理解できたところで、両者の併用について考えてみましょう。住宅ローン控除とiDeCoを併用する場合、iDeCoによる所得控除を利用しても、納税する所得税・住民税がある場合は、住宅ローン控除による税額軽減が適用されます。
つまり、併用により所得税・住民税を軽減できるのは、自分が支払う税額の範囲内であるという点に注意しておきましょう。併用による控除額が所得税・住民税の上限を超えると、引ききれずに節税効果が薄れてしまうことになります。
しかし、今回の税制改正で控除率が0.7%に下がり、住民税からの控除上限額も下がったことから、同額の住宅ローンを利用した場合、年間に受けられる住宅ロ-ン控除額が縮小しました。たとえば、長期優良住宅で5,000万円超の住宅ローンを利用した場合、改正前は1%で年最大50万円の控除を受けることができましたが、改正後は0.7%で年最大35万円と、15万円も下がりました。
住宅ローン控除だけを考えると残念に感じますが、2021年までの制度ではiDeCoを併用したときに所得税・住民税が引ききれなかった人も、今回の改正により、iDeCo分の控除額が拡大していることになります。中には、両方の節税効果を全額受けられるようになった人もいるかもしれません。
住宅ローンを借りると、早めに繰り上げ返済を検討したいと考える人も多いようです。しかし、繰り上げ返済の分のお金をiDeCoに回して住宅ローン控除と併用することで、今より節税効果が高まる場合があります。
私たちの暮らしはどう変わる?
住宅ローン控除を受ける際や、iDeCoとの併用を考える際には、
所得税・住民税を確認しておくことが大切です。世帯の納税額をチェックして、上手に減税制度を活用すると良いでしょう。
所得税は、年始に会社から受け取る「源泉徴収票」、住民税なら毎年5~6月頃に届く「住民税決定通知書」を参考にして、把握しておきましょう。住宅ローン控除をはじめ、資産形成をサポートするためのさまざまな税制優遇を国は用意しています。上手に取り入れながら、将来に向けたマネープランを立てておくことも大事です。老後資金を自分で積み立てる、iDeCoもその1つと言えます。
住宅ローン控除を利用しても、所得税や住民税の控除の余地がある場合や、児童手当や保育料、高校無償化などの関係で「所得控除」を増やしたい場合は、iDeCoの併用を検討しましょう。
会社員で、企業型の確定拠出年金(DC)を行っている場合でも、iDeCoを始められる場合があります。▼会社員のiDeCo
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また、家計のバランスをとるためにも、住宅ローン返済とiDeCoを並行して行うことは意味があると考えます。住宅ローンの繰り上げ返済ももちろん大事ですが、超低金利の中では、あわてて返済する以上に、中長期での投資をして老後資金を増やす努力も必要だからです。人生100年時代、ますます老後が長くなっています。あくまでも運用次第ですが、
住宅ローンの繰り上げ返済の分のお金をiDeCoに回して投資信託の積立を行うことにより、老後に備えるための資産を増やせる可能性が広がります。共働きを続ける夫婦に限りますが、すでにiDeCoを行っていて住宅購入を検討する際には、夫婦それぞれが住宅ローンを契約する「ペアローン」や、フラット35を利用した「連帯債務」にすることで、夫婦2人ともに住宅ローン控除を適用する方法があります。これらの選択肢も検討してみると良いでしょう。
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※2022年11月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
- 執筆:豊田 眞弓(とよだ まゆみ)
- ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、相談診断士。FPラウンジ代表。マネー誌ライター等を経て、94年より独立系FP。現在は、個人相談のほか、講演や研修講師、マネーコラムの寄稿などを行う。6カ月かけて家計を見直す「家計ブートキャンプ」も好評。亜細亜大学等で非常勤講師も務める。「50代・家計見直し術」(実務教育出版)など著書多数。座右の銘は「今日も未来もハッピーに!」。
Webサイト:https://happy-fp.com/