年金の受給開始年齢は、性別や生年月日によって異なる

・公的年金は国民年金と厚生年金の2種類

日本の公的年金制度は、2階建て構造になっています。20歳以上60歳未満の全員が加入する国民年金(基礎年金)が1階部分、会社員や公務員などが加入する厚生年金が2階部分です。

公的年金制度

会社員や公務員は国民年金に加えて厚生年金に加入するため、2階建てと呼ばれます。自営業や専業主婦は国民年金のみに加入します。働き方や暮らし方によって加入する年金が変わるのが、日本の公的年金制度の特徴です。

・国民年金(基礎年金)は65歳から

1階部分の国民年金は、日本に住む20〜60歳までの人は加入する義務のある年金です。最大40年分の保険料を支払う期間があり、10年以上の保険料を支払うことで受給資格を得ることができます。受給開始年齢は原則65歳です。

国民年金は、令和4年2月現在で最大78万900円を年間で受け取ることができますが、経済的理由などで免除や猶予をもらい、保険料を支払わなかった期間がある場合は、その期間に応じて受給金額が少なくなります。なお、国民年金は10年以上の保険料を支払わないと、受給することはできません。

・厚生年金も65歳からの方が多い

厚生年金は、会社員や公務員の人が受け取ることができるもので、こちらも原則65歳から受け取ることができます。厚生年金に加入していた期間や収入に応じて受給できる金額は変動するので、もらえる金額は人により異なります。

厚生年金の受給開始年齢は、以前は60歳でした。
しかし、厚生年金の受給開始年齢は段階的に引き上げられており、2013年度の年金制度改正で、男性は1961(昭和34)年4月2日生まれ以降の方、女性は1966(昭和41)年4月2日生まれ以降の方は65歳になりました。

年金の受給開始年齢(性別・生年月日別)

【図@】(性別・生年月日別)年金の受給開始年齢

図@は、男女別の受給開始年齢です。男性と女性で開始時期に5年の開きがありますが、男性は昭和28年の4月2日生まれから、女性は昭和33年生まれの4月2日生まれから、2年おきに厚生年金の受給開始年齢が引きあがっています。
この表に該当する方は、生年月日によって厚生年金の受給開始年齢が異なるため注意が必要です。
50歳以下の方は全員、年金の受給開始年齢は65歳であることがわかります。

参考:老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額

参考:老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額

受給開始年齢が引き上げられている背景

・日本の年金制度は「仕送り形式」

なぜ受給開始年齢が引き上げられているのでしょうか。その理由として、年金制度が賦課(ふか)方式であることが挙げられます。

今納めている年金保険料は、将来の自分のために積み立てているというイメージがあるかもしれませんが、実は違います。
賦課方式とは、今の現役世代が納めた保険料を、今の年金受給世代に老齢年金として支払う方式です。現役世代が年金受給世代に仕送りをしているというイメージで、自分が年金受給世代になると、そのときの現役世代が納める保険料が年金原資となります。

そのため、賦課方式は少子高齢化の影響を強く受けます。少子高齢化が進むと、少ない現役世代で多くの高齢者を支えなければならなくなるからです。

・2060年には、1.4人で1人の高齢者を支える時代に

では、日本の少子高齢化は具体的にどのくらい進んでいるのでしょうか。今後の想定も含めて確認してみましょう。
以下の図Aは、総務省および国立社会保障・人口問題研究所が公表している人口推計の1960年、2010年、2060年時点の日本の人口ピラミッドです。青は男性、ピンクは女性を表しています。

人口ピラミッドと現役世代:高齢者割合

【図A】 日本の人口ピラミッド

この推移を見ると、日本の少子高齢化の進行具合がよくわかります。
また、以下に現役世代と高齢者の割合を表しました。

現役世代:高齢者割合

現役世代(15〜64歳) 高齢者(65歳以上)
1950 12.1人 1人
1975 8.6人 1人
2015 2.3人 1人
2030 1.9人 1人
2060 1.4人 1人
  • 【図B】 現役世代と高齢者の割合の推移
  • 1950年〜2015年分は、総務省各年「人口推計 各年10月1日現在人口 年次」。
  • 2030年および2060年分は、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)詳細結果表」を参照。

1950年は12.1人の現役世代で1人の高齢者を支えていましたが、2015年には2.3人で1人、2060年の推計では1.4人で1人の高齢者を支えることになります。

保険料を負担する現役世代と年金を受給する高齢者の割合が等しくなりつつあるため、今後さらに年金の受給開始年齢が引き上げられる可能性も考えられます。とはいえ、現時点では65歳からさらに引き上げられるという話は出ていないため、今のところは65歳から年金を受給できると考えて良いでしょう。

受給金額は、受け取り時期によってどれくらい変わる?

・「繰り上げ受給」で受け取りを1ヵ月早めるごとに、受給額が0.5%減る

年金は、「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」も可能です。

通常は65歳から受け取れるものを、早め(60歳〜64歳)に受け取ることを「繰り上げ受給」、遅め(66歳〜70歳)に受け取ることを「繰り下げ受給」といいます。
繰り上げ受給は60〜64歳の間に請求し、1ヵ月単位で繰り上げることができます。
年金は終身にわたって受け取ることができるため、早く受給できると聞くと魅力的に感じますが、「0.5%×繰り上げ月数」という減額率によって、年金受給額が減額されるというデメリットもあります。受給開始年齢を60歳に繰り上げるとすると、30%(=0.5%×60ヵ月)の減額です。

たとえば会社員(平均年収550万円、厚生年金に38年加入)の場合、65歳から受け取る年金額は、約15.9万円(月額)です。繰り上げ受給で60歳から受け取るとすると、15.9万円×70%(100-30%)=11.1万円(月額)になります。この額を、生きている限り受け取り続けることができます。

差額を計算してみましょう。
1ヵ月繰り上げるごとに0.5%減額されるため、年間6%減額されることになります。100%÷6%=16.6なので、16年以上生存すると損になります。
そのため、76歳以降も生存の場合には、繰り上げ受給を「しない」ほうがお得になります。

2022年4月1日以降は、減額率が1ヵ月当たり0.4%に変更される予定です。
そのため、年間4.8%減額されることになり、60歳から20年以上(100%÷4.8%=20.8)、つまり80歳以降も生存の場合には繰り上げ受給を「しない」ほうがお得ということになります。

・「繰り下げ受給」で受け取りを1ヵ月遅らせるごとに、受給額が0.7%増える

繰り下げ受給は、66〜70歳の間に請求し、1ヵ月単位で繰り下げることができます。

繰り下げ受給のメリットは、遅らせるごとに年金受給額が増額されることです。
増額率は「0.7%×繰り下げ月数」です。

たとえば、受給年齢を70歳に繰り下げた場合は42%(=0.7%×60ヵ月)増額されます。先ほどの例の会社員(平均年収550万円、厚生年金に38年加入)の場合、繰り下げ受給で70歳から受け取るとすると、15.9万円×142%=22.6万円(月額)になります。この額を、生きている限り受け取り続けることができます。

差額を計算してみましょう。
1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額されるため、年間8.4%増額されることになります。100%÷8.4%=11.9なので、11年以上生存すると得になります。
そのため、81歳以降も生存の場合には、繰り下げ受給を「する」ほうがお得です。

2022年4月1日以降は、75歳まで繰り下げることができるようになる予定です。
そのため、75歳から年金を受け取る場合は84%(=0.7%×120ヵ月)増額され、先ほどの例の会社員(平均年収550万円、厚生年金に38年加入)であれば、15.9万円×184%=29.3万円(月額)になります。

受給年齢を繰り下げた場合の受給額
会社員(平均年収550万円、厚生年金に38年加入)のケース

下の表は横にスクロールできます

70歳からの受取時 75歳からの受取時
(2022年4月1日以降可能に)
増額率 42%(0.7%×60か月) 84%(0.7%×120か月)
受給額 15.9万円×142%=
22.6万円(月額)
15.9万円×184%=
29.3万円(月額)

【図C】受給年齢を繰り下げた場合の受給額

  • そもそもいくらもらえるかについてはこちら

夫婦で考える、年金はいつから受け取るとお得?

・男性は65歳、女性は70歳からがお得

夫婦で老後を過ごす場合、いつから年金を受け取るのが正解なのでしょうか?

夫婦共に平均寿命まで生きると仮定して検証してみましょう。日本人の平均寿命は、男性が81.25歳、女性が87.32歳です。

前述のとおり、受給開始年齢を60歳に繰り上げると、76歳以上(2022年4月1日以降は80歳以上)生きる場合は損になります。平均寿命と比較すると、繰り上げ受給は損になると言えるでしょう。

また、81歳以上生きる場合は受給開始年齢を70歳に繰り下げたほうがお得です。81歳というと、男性は平均寿命とほぼ同じであるため、お得になるかは微妙なところです。女性はそこから6年長く生きる可能性があるため、お得になる可能性が高いと言えます。

・妻が年上の場合

例えば、妻が年上で、夫が加給年金を受け取っている場合、妻が先に65歳になると、夫が受け取る加給年金は支給されなくなります。その代わり、夫が受け取るはずだった加給年金を妻の老齢基礎年金に振り替えることができ、これを「振替加算」といいます。振替加算が発生する場合は、日本年金機構より書類が届きます。
振替加算額は加給年金額に対して掛け率で算出され、掛け率は年代により異なります。多くの場合、夫に支給される加給年金の金額と比べると少なくなるので、振替加算がどれくらいもらえるのかは、日本年金機構から届く書類を確認しましょう。

・65歳以降も働く場合

65歳以上70歳未満の厚生年金保険の被保険者のうち、まだ働いているなどで一定の所得がある場合、その金額によっては厚生年金保険の一部または全額を受給することができません(国民年金は受給できます)。これを在職老齢年金といいます。

在職老齢年金による調整が入るか入らないかのボーダーは、1月当たりの収入の合計で47万円です。在職老齢年金で調整が入ってしまった場合、繰り下げ受給の扱いにはならず、65歳からの金額で受け取ることになるので注意が必要です。

・お得というだけで決めるのは危険

とはいえ、現実はそう単純ではありません。
60歳で退職するのかどうかや貯蓄額、健康状態によって、受け取りはじめるべき年齢は異なります。

たとえば貯蓄額が少なく退職金もないため、できるだけ早く年金を受給したいと考える方や、十分な貯蓄や退職金があり、年金がなくても70歳まで余裕を持って生活できる方もいるでしょう。
すぐにでもお金が欲しい方が、長い目で見るとお得になる可能性が高いからといって、受給開始年齢を70歳に繰り下げるのは得策ではありません。

それぞれの夫婦の経済状況や老後に対する考え方によって、繰り上げ受給や繰り下げ受給をするのか、65歳から受給するのかを検討しましょう。

まとめ

2022年現在で50歳以下の方は、国民年金も厚生年金も65歳からもらえます。

年金の受け取りを早める「繰り上げ受給」や、受け取りを遅らせる「繰り下げ受給」という制度が存在するため、60歳〜70歳のうち好きなタイミングから受け取りはじめることも可能です。
ただし、65歳より早く受け取りはじめる場合は「減額」、遅く受け取りはじめる場合は「増額」される点に注意しましょう。

平均寿命だけを考えると、男性は65歳から、女性は70歳から受け取りはじめるのが最もお得と言えます。

実際には、夫婦の経済状況や健康状態、退職のタイミングなども踏まえて、受け取りはじめる年齢を決めましょう。人生100年といわれる現代、65歳で退職すると、100歳まで35年もあります。その35年間で趣味を目一杯楽しみたい、年に数回くらい海外旅行に行きたいなど、夫婦の希望を今のうちからよく話し合っておくことが、豊かな老後生活への第一歩となります。

  • この記事は2019年12月に公開した内容を2022年11月に内容を更新して掲載しています。今後、変更されることもありますのでご留意ください。

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