人生の折れ線グラフ -「いままで」と「これから」-人生の折れ線グラフ
-「いままで」と「これから」-

2018.06.27
人生の折れ線グラフ -「いままで」と「これから」- フリーアナウンサー安東弘樹 経済ジャーナリスト 酒井富士子

新たなスタート。
気負い過ぎずに、自分らしく。

アナウンス部次長という役職を離れ、この春、フリーアナウンサーへと転身した安東弘樹さん。27年間という会社員生活には、テレビ画面からは伝わらない苦労もあったようです。後編となる今回は、フリーになったきっかけと趣味の域を超える車の話、そして将来についてなど、安東さんのこれからに迫ります。

60歳で死んでしまうとしたら、このまま会社員で後悔がないか考えた

酒井前編では、学生時代からご結婚されるまでのキャリアやお金の価値観について伺ってきましたが、後編では、フリーになったきっかけから伺いたいと思います。現場で活躍されている印象の強い安東さんですが、43歳になってからはアナウンサーを続けながらマネージャー業務を兼務されていたそうですね。

安東:アナウンス部次長として、後輩アナウンサーたちのマネジメントをしていたのですが、現場から発注を受けて後輩一人ひとりとスケジュールを調整したり、衣装やメイクを番組のAP(アシスタントプロデューサー)さんと相談したり、ギャラ交渉しない以外は、タレントさんのマネージャーに近い業務をしてました。

酒井:テレビやラジオに出演しながら、そんな激務を?

安東:はい、正直、プレイングマネージャーとしての7年間はかなりきつかったですね…。いちばん多い時で13名を担当していました。自分のアナウンサー業務が終わった後にマネジメント業務をするので、深夜3~4時になることも度々あって、睡眠時間を削ってやっていました。

酒井:一方、やりがいもあったとか?

安東:後輩たちと密にコミュニケーションがとれたのは本当によかったと思います。僕はお酒を飲まないし、後輩を食事に誘うことはしないタイプなんです。でも、マネジメント業務を通じて後輩一人ひとりとコミュニケーションがとれますし、悩み事を相談されれば、とことん話を聞いていました。

酒井:後輩の皆さんから頼りにされていたでしょうね。

安東:上司から聞いた話では、13名まで担当人数が増えてしまったのは、「安東班でないと嫌だ」と言ってくれる後輩が多かったからだそうです。また、会社を辞めることをメンバーに伝えた時に泣いてくれた子もいて、そういったつながりを持てたことは財産だと思いますね。

酒井:退社の決意をしたのはいつだったのですか?

安東:僕はいま50歳なんですが、ずっと体をいじめてきたので、この先たとえば60歳で死んでしまうとしたら、このまま会社員で後悔がないか考えるようになりました。
その時に、これまでと違った環境で仕事をしてみたいと思ったんです。そして、2017年の11月に退社を決意しました。

酒井:退社されたのは2018年の3月末なので、決心してからすぐでしたね。

安東:体力的にももう限界かなと感じていましたから、決心してからは早かったですね。ラジオの仕事でご一緒していた、役者の古田新太さんが所属する事務所との出会いも大きかったです。

本能を呼び覚ます「車」という存在

酒井:話は変わりますが、ご趣味について教えてください。車がお好きなんですよね?まだTBSの会社員だった時に、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員に選出されたとか。

安東:はい、ずっと車が好きで、会社員時代から車雑誌にコラムなどを書いていたら、あるイベントで一緒に仕事をしたジャーナリストの方が雑誌媒体に推薦してくれたんです。

酒井:選考委員では、どういったお仕事をされるのですか?

安東:簡単にいうと、僕を含めて60名いる選考委員は、毎年12月の初旬にその年に販売された車の中で総合的に最も評価できる車を選ぶ役割を担っています。試乗などを繰り返して意見を出すのですが、本職ではないので、まったく忖度しないのが自分のいる意義かと(笑)。もちろん、ほかの方もそんなことしてないとは思いますが。

酒井:これまで所有した車は40台以上とか?倹約家でいらっしゃるのに、そこには惜しまないのですね。

安東:車は、すべてローンで購入しています。とにかく距離を乗るので購入から2年未満くらいで状態の良いうちに売却してローンの残債を整理し、余ったお金を次の車の頭金にして、というのを繰り返して、うまく乗り継いでいます。

酒井:やはり、計画的ですね。安東さんにとって車はどんな存在でしょうか?

安東:仕事のことやお金のことなど、常に何かを計算している僕とって、人間の本能を感じさせてくれる存在ですね! 1トンや2トンという、金属やプラスチックの塊、しかも人間の英知の集合体を手足のように操れるという、こんなカタルシスはないと感じています。自分だけの空間ですし、乗っている時は母の胎内のような安心感を覚えます。

働いた分だけお金がもらえて、働かなければもらえないという純粋なスタイルが楽しみ。

酒井:フリーになられて間もないですが、心配ごとはありますか? たとえば会社員だと決まったお給料が毎月支払われますが、これからは違いますよね。

安東:解放感のほうが大きいですね。TBS時代は会社の評価に違和感も正直ありました。管理職は残業代が出ませんし、マネジメント業務の担当人数は6名でも13名でも給料の増減がありませんでした。一応、好きなアナウンサーランキングに入ったりもして、仕事量も多かったのですが、何を評価されているのか、何が評価を下げているのか、基準がまったく見えないのがストレスになっていました。

酒井:決して評価が高くなかったと?

安東:わからないですけど、上司にはっきりと意見する人間でもあったので、社内で反感を買うこともあったかもしれませんね(笑)。正直、たとえば無駄な会議があると、「この会議、なくてもよくないですか?」ということを言ったりもしていて(笑)。自分で納得できないことに対して隠しておけないんですよね。

酒井:自分を貫くことは大切だと思います。フリーになるにあたって、お金の将来設計は見直しましたか?

安東:これまでの貯蓄と退職金を計算して、たとえば、仕事がなくなったり、体を壊したりしても、年金をもらえるまでは暮らしていけることは確認しました。事務所との契約は歩合制にしてもらったんですが、サラリーマンと違い、働いた分だけお金がもらえて、働かなければもらえないという純粋なスタイル。今は楽しみのほうが大きいです。

酒井:安東さんの性分に合っているのかもしれませんね。

安東:あとは、フリーはやっぱり体が資本なので、健康には気を付けたいと思っています。

酒井:フリーになった今、将来に向けて抱負や夢はありますか。

安東:基本的には将来の目標というより、いま目の前にある仕事をとにかくきちんとやることを重視しています。ただ、住まいについての夢はあります。今は、車2台を縦に駐車するガレージなんです。妻は運転しませんし、僕が一人で2台の車を出したり入れたりするのですが、周りが住宅街なので、ご近所さんや宅配のドライバーさんに迷惑を掛けているなと気になっています。将来的には、車を横に3台並べられるビルトインガレージを備えた家に住みたいですね。

新しい環境でも、気負いすぎずに、全力で現場に臨みたい

酒井:最後に、老後の理想像はありますか?

安東:今はあまりイメージがわかないのですが、子どもたちに遺産は遺さないようにしたいとは考えています。

酒井:それは、なぜですか?

安東:自分が子どもの頃、1年間だけ一緒に暮らした祖父の影響が大きいのかもしれません。祖父は弁護士だったんですが、人権擁護のために尽力した厳格な祖父でした。

酒井:弁護士でしたら、遺産相続のこともおくわしかったでしょうね。

安東:遺産相続の醜い争いを熟知していたので、祖父は生前、資産を寄付して余分な現金を家族に遺さずに逝きました。少しでも遺してくれたらここまで苦労しなくてよかったのに、と思ったこともありますけど、おかげで争いもありませんでした。だから僕も、子どもたちには一銭も残さないと、妻に宣言しているんです。

酒井:お子さまへの考え方や、安東さん自身の真っ直ぐな性格はお祖父さまの影響も大きいんですね。たとえば今まで老後に備えて、資産運用などを検討したことはありますか?

安東:基本的にはなかったですね。自分の血と汗と涙で得るしかないという考えです。でも、医療系のベンチャーなど、世の中のため、新しいことに挑戦している会社を応援する投資は損してもいいし、ゼロになってもいいと思います。投資ってもともとそういうものだと思うんですよね。

酒井:それも正しい投資の考え方だと思います。最後に、安東さんも新たな挑戦を始めたところですが、同じように初めの一歩を踏み出そうとしている方へのアドバイスはありますか?

安東:新しい事でも気負いすぎず取り組むのがいいのかなと思います。僕の場合は、これまで通り、いただいた仕事は現場のスタッフさんの期待に応えられるように、常に全力で現場に臨んでいます!フリーになって、その気持ちが強くなった部分もありますが、その上で大切なのは、人に対する思いやり、愛がすべてだと思います。

安東 弘樹(あんどう ひろき)

1967年10月8日生まれ。1991年にTBS入社。アナウンサーとして27年勤め(後期7年はプレイングマネージャー)、2018年3月末にTBSを退社。その後、フリーアナウンサーとしてキューブに所属する。2017年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。現在、レギュラーで「ふるさとの夢」(TBS)、「LIVEトリビア」(LINE LIVE)に出演するほか、多数の番組に出演中。

安東 弘樹(あんどう ひろき)

酒井 富士子(さかい ふじこ)

株式会社回遊舎 代表取締役。上智大学新聞学科卒業後、日経ホーム出版社(現、日経BP社)に入社。「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルートに入社。「赤すぐ」(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から現職。近著に『60代の得する「働き方」ガイド』がある。

酒井 富士子(さかい ふじこ)