お店を開いてから変化したお金の価値観。キーワードは「自己投資」

会計ソフトで経理業務を一括管理

  • 経理業務は会計ソフトで一括管理

阿部さんは、お店を開いてから、お金についても今まで以上にしっかり考えなければと思うようになったそうです。
そのきっかけは「大きい判断をする機会が増えた」と感じたこと。

「『何にどれだけ投資して、どこで回収していくか』といった判断を素早く出さなければならない場面が、すごく増えました。
例えば、大きなイベントに出ると大きな収益を望める可能性があるけれど、雨天などで集客が落ちると赤字になってしまいます。あらゆる状況を想定して、クライアントと交渉をしていかなければなりません。どう交渉して、どう最終判断を下すのかの見極めが必要なんですよね」

この難題は会社員時代にはないものですが、そこと向かい合うたびに、「自分の店をどうしていくか」という方向性を確かめられていった側面もあるようです。

「自分でお店を経営するようになってからは、お金に対する価値観も変化しました。本を買ったり、行きたいレストランに行ったりすることは自己投資で、自身の成長や将来の収入にも直接結び付くと思っているので、惜しみなくお金を使います。逆にセール品など、長く持てないものは買わなくなりましたね」

一方お金の管理については、試行錯誤の連続。
確定申告のため、収支はつけているものの、管理に苦労していると阿部さんは話します。

「会計ソフトを使い、月々の請求書、経費の管理、確定申告の書類作成をしています。
でも、なかなか毎月経理業務をする時間が持てず、半年分や1年分をまとめて計上するので、毎月の経費や利益が細かくは把握しきれていない部分があるのが悩み。最近子どもが生まれたので、貯めていかなきゃと考え始めたところです」

保険や年金も、国民年金と国民健康保険、そして祖父が昔入ってくれた生命保険に入っている程度。
いざというときの保障よりも、お店を軌道に乗せることを優先してきました。

「今年からは、小規模企業共済※に入る予定です。また、投資信託などでお金に働いてもらうことも必要なのかなとより考えるようになりました。
今年は認可外保育園しか入れなかったこともあり、子どもが生まれてからお金のことは切実ですね」

  • 小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者・役員を対象にした共済。退職時や廃業時に備えて、掛け金を積み立てる。掛け金は全額を所得から控除できる上、事業資金の借り入れも行えるという事業主にとってメリットの多い制度。

会社員から三足のわらじを履くフリーランスへ、そしてカレー屋1本に。年収はどう変化した?

<阿部さんのキャリアパス>

阿部さんのキャリアパス

「フリーランスとして人事とWEBディレクター、カレーの3つの仕事を掛け持ちしていた時が、金銭的にはもっとも余裕がありましたね。会社員時代より額面の年収は半分以下にはなっている一方、例えば外食費は研究費として、旅行費はスパイスの調達費としてなど、経費として計上できる支出が増えたので、自由に使えるお金は1.5倍くらいに増えたのですが、カレーの仕事が忙しくなってきたタイミングで妊娠。
それをきっかけに、カレーのお仕事1本に絞ったので、収入で言えばピーク時と比べると落ちてしまっていますが、家計は夫と共働きで支えあう形でやりくりできていることもあり、充実度としては今が一番高いです。」

「初めて間借りでお客さんにカレーを出した時に、自分が買ってきた材料で、自分でカレーを作って、それを目の前の人に提供して、『おいしいよ』『ありがとう』と言われて1,000円頂く。
この単純な、でも商いの根底である体験がシンプルにすごくうれしくて。これが労働の喜びか!と感動しました。その喜びは、今も全然色あせなくて…。これが、カレーの仕事をやっている一番のモチベーションですね」

大切なのはやりたいことへの情熱と、人とのつながり

「kitchen and CURRY」店主の阿部由希奈さん

  • 独立したい読者へのアドバイスを聞いてみました

会社員時代、そのおいしさに気付き、週に3回カレーを食べていたというごく平凡な趣味だったカレーと阿部さんの関係。
「せっかくだから、カレーを極めてみよう」と食べ歩きからスタートし、SNSでの情報発信、カレーの魅力にどっぷりはまり、いつしか“流しのカレー屋”となりお店を持つまでになりました。

一歩一歩、しかし情熱をもって進んできた阿部さんに、自分らしい働き方を見つけたいと思っている読者にアドバイスをいただきました。

「私は、会社員をやりながら、同時並行でカレーの仕事をはじめました。まず何かやりたいと思ったら、これまでの仕事を辞めてからゼロスタートするのではなく、会社員プラスαで始めると良いのではないでしょうか。
時間や体力はキツいんですが、大変な中でも、情熱を傾けてやれるのだったら、それはずっと続けていけること。フリーランスは出産手当や育休手当といった社会保障がないため、ライフイベントによる休業中の家賃や生活費も自分で賄わなくてはいけないのが大変なところ。
それでもやりたいか、やりきれるかどうか計ってみるという意味でも重要だと思います。そこから徐々にシフトしていくと、リスクヘッジになるのではないでしょうか」

また、独立すると、人とのつながりも非常に大切。専門的な立場で仕事をする者同士、その知識や技術を提供し合えるのだと言います。

「カレーの活動をする中で出会った人たちには非常に助けられました。例えば、店舗をオープンするときは、飲食店の経営に詳しい先輩からアドバイスをもらいました。金融機関からの融資もあったのですが、少し足りなくて。困っていたところ、『キッチン設備は施工業者を通して購入すると手数料がかかって割高になるから、自分で購入するといいよ』と教えてもらえて、約20万円を節約することができました。
チュニジアにゆかりのある知人には、店舗で使うタイルを現地調達してもらいましたし、本当に人とのつながりは大切ですね」

そんな阿部さんですが、今の生活を点数にすると一体どれくらいになるのでしょうか。

「80点…ですね。後悔するのがイヤなので、後悔しないためにどれだけ努力できるかを自分の軸としているのですが、それをどれだけ実行できているかと考えると80点くらいかな、と」
と、かなり高い点数が返ってきました。

身につけたスキルや経験、そして人とのつながりは、やりたいことに情熱をかけるときにも支えになってくれるという阿部さん。
自分らしさをもって一歩一歩スキルをみがき、人やモノゴトとの出会いを探し求めることで、彼女のように新しい道を切り開けるのかもしれませんね。

<阿部さんのモチベーショングラフ>

阿部さんのモチベーショングラフ

<お知らせ>

阿部さんのカレーの魅力がつまった本が出版されました!
『スパイスで魔法をかける and CURRYの野菜が主役 季節のカレー』
野菜たっぷり、からだにおいしい! 「and CURRY」の季節を楽しむ、彩色カレー40品。

  • 2020年9月現在の情報です。今後、変更されることもあるのでご留意ください。
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