新たなスキルを磨き、自分の価値を高める。前向きな転職を行ってきた20代

宿泊施設の窓からは海と瀬戸内の島々が望める

  • 宿泊施設の窓からは海と瀬戸内の島々が望める

広島県東部に位置する港町・尾道市は、路地や坂道の多い街並みや温暖な気候、青く美しい瀬戸内海、そして、その先に浮かぶ島々など、数多くの魅力があることで知られています。

高掛さんは、尾道市のお隣にある広島県三原市の出身。大学進学を機に地元を離れ、大阪で一人暮らしをはじめました。

「大学卒業後、専門学校に進学して3DCGや映像編集、Web制作を学びました。卒業後は業務委託で放送局の仕事をするように。自社ホームページやモバイルサイトの制作・運営などに携わりました」

充実した日々を送っていましたが、自分の可能性をさらに広げるべく、東京で新たなキャリアをスタートさせます。

「映像制作会社で映像制作のスキルを磨き、その後広告制作会社で広告デザインに挑戦。さまざまな企業で経験を積んでいきました。デザインだけでなく、ディレクターやプロデューサーとして制作にかかわる機会も得るなど、幅広い視点で広告制作を学ぶことができました」

その後、「一流の技術を吸収したい」という思いから大手通信会社系のコンテンツ制作会社に転職し、Webサイトのノウハウを得たのち、30歳でサイバーエージェントに転職。100社近くのインターネット広告を制作したほか、自社メディアを活用した広告商品の企画開発や運用に携わりました。

順調にキャリアを歩んできた高掛さんですが、ある出来事をきっかけに、独立を考えるようになります。

東日本大震災を機にソーシャルビジネスへの思いが高まり、移住を決意

移住したものの東京は今も大好きという高掛さん

  • 移住したものの東京は今も大好きという高掛さん

「2011年3月、東日本大震災が発生した時のことを今もよく覚えています。被災者の方々が大変な思いをしている中、自分はいつも通り出勤し、いつものように担当の業務に携わっていて、『こんなに大変な状況なのに、なぜ変わらず会社の利益のために働き続けなければいけないんだろう』と疑問を抱くようになりました」

やがて高掛さんは「社会的問題の解決」という視点からビジネスに携わってみようと決意。自然・有機農法の農家さんが作った農作物を販売する店舗「産直マルシェTORO」を三軒茶屋にオープンさせます。

「これらの経験から、もっと社会に貢献できる事業を自ら立ち上げたいという思いが高まっていきました。プライベートでは結婚もし、ライフスタイルが大きく変化したことで、今後の人生を考えるように。これから生まれる子どもにも、僕と同じように山や海に囲まれた場所で、好奇心いっぱいに遊びながら成長してほしいと思ったんです」

東京を離れ、自然豊かな場所に移住しよう。海があって山があって、魚釣りや畑づくりを楽しめて……とイメージを固めていった高掛さんは、新規事業のスタートを目標に、まずは現地企業の正社員として尾道への移住を果たしたのです。

空き物件を自分でリノベーションし、一棟貸しの宿泊施設をオープン

瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)外観

  • 瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)外観

2012年末、サイバーエージェントを退職。翌年1月から尾道に移住し、食品メーカーで正社員として働きながら、週末にはバイクで瀬戸内の島をまわって新事業にふさわしい土地を探す日々。そして、高掛さんがイメージした通りの景色が続く「百島」に出会い、海沿いの空き物件を購入しました。

高掛さんが始めた事業は、瀬戸内の空き家をリノベーションして宿泊施設として貸し出すというもの。2016年1月、一棟貸しの宿泊施設「瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)」をオープンし、ファミリー層を中心に利用客を増やしていきました。売上も順調に伸びていき、2019年には、600人強のお客さまが利用するまでになりました。

では、事業をスタートさせるにあたって、高掛さんはどのような準備を行ってきたのでしょうか。特に資金面の準備が気になるところですが、高掛さんいわく、「東京で稼いだお金は、ほとんど使い切って尾道に移住しました」とのこと。

「幸いなことに、物件の購入費用は120万円と、自己資金で調達できる範囲内でした。僕の場合、自分の責任の範囲内でやっていける範囲のスモールスタート。一方で、プライベートで出会い、仲良くなった地域の人たちにもたくさん協力していただいています」

大工の友人ができ、高掛さんの考えに共感し、DIY未経験だった高掛さんにリノベーションの技術を教えてくれました。開業後、島の人と仲良くなって、そこからチェックイン・アウトの業務をお願いする業務委託の話につながっていきました。宿泊客が島の滞在を楽しめるよう、地元の料理店に「海辺の出張料理」をお願いしたり、シーカヤックの事業者に依頼して「シーカヤック体験」を始めたり、地元の人たちとのご縁で始まったサービスもたくさんあります。

建設中の2棟目

  • 建設中の2棟目

「空き家の解消や観光促進、雇用創出、さらには漂着ごみの回収など、このビジネスを通じて百島のさまざまな問題を解決するお手伝いができるようになりました。これを持続して行うことで、社会課題の解決に寄与していきたいと考えています」

1棟目のオープンから4年。今、高掛さんは新たな物件を購入し、2棟目オープンに向けて改修工事を進めています。

瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)は毎年120%の成長。昨年の年収は東京で就職していた頃の1.5倍に!

高掛さんの今に至るまでの道のりを振り返ってみると、順調にキャリアアップを果たしてきたように見えます。しかし、その道のりは決して平たんではありませんでした。

「一番つらかったのは、尾道の食品メーカーに転職したころ。年収が東京で就職していた頃の3分の1に下がり、自分で自由に使えるお金がほとんどなくなってしまいました」

会社の後輩にランチをごちそうすることもできない日々。しかしそんな生活を送りながらも、高掛さんは希望を失いませんでした。経済的な苦しさがバネになり、「きっとやり遂げてみせる」と高いモチベーションを維持することができたのです。

「百島に空き家を買った時は、妻の反対もありました。こんなボロ屋を買ってどうするのって。でも僕には、空き家をリノベーションして宿泊施設の事業を始めている自分の姿がイメージできていました。ゴールに向かって突き進む実感もあったし、常にワクワクした思いでいっぱいだったので、モチベーションが下がることはなかったですね」

最近は建設中の2棟目をチェックしながら外で仕事

  • 最近は建設中の2棟目をチェックしながら外で仕事

一度は反対していた奥さまも、今では高掛さんの良き理解者。子育てをしながら、帳簿の入力を手伝ってくれているそうです。確定申告に関しては、尾道の経済同友会で出会った税理士が、破格の値段で引き受けてくれました。

瀬戸内隠れ家リゾートCiela(シエラ)の他にも、高掛さんは瀬戸内ブランドの確立や地方創生に取り組む組織「せとうちDMO」と業務委託契約を結び、観光メディアやインバウンドメディアのプロデュース、観光促進を目的としたキャンペーンのプロデュースなどを手がけています。生活の拠点は尾道市内にあり、在宅ワークで各種プロデュースに取り組みながら、定期的に百島を訪れ、瀬戸内隠れ家リゾートの事業を進めています。

アウトドアグッズたち。コーヒードリッパーは三原市の竹細工職人さん作

  • アウトドアグッズたち。コーヒードリッパーは三原市の竹細工職人さん作

「瀬戸内隠れ家リゾートの事業は毎年120%の成長を続けており、近々、2棟目がオープンすることを考えても、売上の伸びが加速していくことが十分に予測できます。金銭的な余裕が生まれたので、以前から興味があった投資信託や株式投資に挑戦したいという思いもあるのですが、この事業から得られるリターンの方が大きい。生命保険や預金でいざという時の備えはしつつも、しばらくの間は、得た利益を事業に再投資する方針です」

高掛さんの年収の変化

好きなことを仕事にしながら社会を良くしていける喜び

仕事帰りなどに釣りを楽しんでいるそう

  • 仕事帰りなどに釣りを楽しんでいるそう

目標に向かってぶれることなく、着実に歩みを進めてきた高掛さん。今後の展望については、このように語ってくれました。

「瀬戸内隠れ家リゾートの事業に軸足を置くつもりです。いずれはフランチャイズ化も実現したいですね。このビジネスモデルを瀬戸内全域に広げていくことで、地方の課題解決に貢献していくつもりです」

高掛さんは、瀬戸内以外の地域貢献も視野に入れています。YouTubeを通じて情報発信したり、オンラインサロン(インターネット上のクローズドなコミュニティ)で、地方創生に取り組む人々の悩みに応えたりしていきたいと未来への想いを語ります。高掛さんがこれまでの取り組みで得たノウハウをさまざまな地域の人々と共有することで、日本各地を元気にする。そんな壮大な目標が垣間見えてきました。

最後に、「今の生活を点数にすると?」とお聞きしたところ、間髪入れずに「100点ですね」と笑顔で返してくれました。

「100点をつけた理由は、自分の人生を自分自身の力で切り拓いている実感があるから。そして、自分の好きなビジネスで利益を上げ、妻や子どもと楽しく生活できているからです」

移住するなら、そこでの理想の人生をしっかり定めてから

35歳で移住。遅すぎるチャレンジはないと語ってくれた

  • 35歳で移住。遅すぎるチャレンジはないと語ってくれた

高掛さんの生きざまには、理想のワークスタイルを築くためのヒントがたくさん隠れています。

一つは、早い段階で3DCGや映像制作というスキルを身につけたこと。その後、急成長していたデジタルコンテンツの分野に軸足を移したこと。そして、好きなことに打ち込みながらも、時代と市場の変化を見極め、今後成長しそうな尾道での宿泊事業に着目したこと。

そして、2棟目の改修工事でも自身で3D図面を作成するなど、独立後も会社員時代に習得したスキルを大いに生かしています。さまざまな会社で経験を積み、ソーシャルビジネスという新しい領域に挑戦している高掛さんの人生が、1本の太い線で結ばれていることがわかります。

最後に、高掛さんに読者の皆さんへのメッセージをお聞きしました。

「移住に失敗した人の話、よく聞きますよね。僕も年収が大幅に下がって、失敗したと思ったことはありました。大事なのは、移住した先にある理想の人生をゴールとしてしっかり定めておくこと。そうすれば、状況に応じて変化しながら、実現に向けて行動していけばいいだけの話。遅すぎる挑戦はありません。皆さんもぜひ、やりたいことにチャレンジしてみてください」

ビジョンを具体的に描いたうえで、決断を下し、実現に向けて柔軟に動いていく。移住に限らず、こうしたシンプルな行動と努力を重ねることが、理想のワークタイルを実現する秘訣なのかもしれません。

<高掛さんのモチベーショングラフ>

高掛さんのモチベーショングラフ

  • 2020年11月現在の情報です。今後、変更されることもあるのでご留意ください。
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