ひとりの人間に戻って、お互いを尊重する

現役時代はなんの問題もなく過ごしていた夫婦でも、定年後、些細なきっかけで、喧嘩をしてしまったり、お互いにイライラしてしまう、という話をよく聞きます。現役時代は、夫(妻)は仕事、妻(夫)は家事など役割分担が明確で、かつ二人で過ごすのも朝と夜だけという方が多いと思います。定年後、家で二人で過ごす時間が急増することで、二人の距離感が乱れ、バランスが崩れてしまうのです。

人生100年が現実に近づきつつある今、人生を前半と後半という2つに区分して考えてみると、新しい生き方が見えてきます。前半は子育てや仕事に忙しく、後半になると、子どもが独立するなど、新たな夫婦の人生がはじまります。人生100年時代は、この2つ目の人生が長くなります。この2つ目の人生を夫婦でスタートできるのは、これまでともにがんばってきた結果ですね。だからこそ次の50年は、お互いの夢や希望を大切にしながら、悔いのない人生を楽しむものにしたいですよね。そこで大切なのは、夫婦それぞれがひとりの人間に戻ってみること。そして、老後に何をしたいのか、どんなふうに暮らしたいのかを夫婦で素直に話し合ってみることでしょう。

たとえば、青春時代に持っていた夢を、2つ目の人生でやりとげてみたいと思うかもしれません。「そんな夢を持っていたのか」とお互いにはじめて知ることにもあるでしょう。もしかしたら「夫婦で一緒にやってみたい」と、二人の気持ちが通じ合うことで、思いもしていなかった人生の出発点になるかもしれません。

そんな心が満たされる定年後を迎えるためには、忙しい現役時代から、夫婦で恊働できる何かを見つけておくことをおすすめします。夫婦の心が重なりあうものがひとつでもあれば、お互いを尊重し、認め合いながら、素直な気持ちで寄り添うことができるはず。冒頭の「定年後の夫婦円満度」チェックを参考に、少しだけ今の夫婦関係を見直してみてはいかがでしょうか。

夢だけでなく人生のしまい方も共有する

驚かれるかもしれませんが、定年後の夫婦のあり方を考えるとき、私は夫婦それぞれの「人生のしまい方」、つまり終活をイメージすることが大切だと思っています。人生の後半になると、いつ永遠の別れが訪れてもおかしくないので、自分自身がこの世を去るときのことも考えておきたいのです。

私が、終活について調べているとき「人生の手じまいの仕方がすばらしい」と思える方々が多くいらっしゃいました。突然の別れが訪れると、家族や親族は残された住居や身辺のものなどを整理しづらく途方にくれてしまいます。また、銀行口座が閉鎖されるなど、相続には手間と時間がかかるものです。終活上手の方々は、これらをわかったうえで、前もって身の回りのことをシンプルに整理し、残された者が迷ったり戸惑ったりしないように、生前から準備されているのです。

後半人生の出発点に、夢だけでなく、人生のしまい方について夫婦共通の認識を持つことで、定年後の生活の基本が明確になります。ここがしっかりと固まっていれば、それぞれの夢や共通の趣味など、夫婦で良い距離感を保ちながら、後半の人生をいっそう楽しめるはずです。

それぞれの財布・口座を持つことで、定年後も夫婦円満に

仕事から離れると、お金はともかく時間がとても自由になります。むしろ、その時間をどう過ごすのか、ストレスとなるほどです。夫婦円満で過ごすための秘訣は、現役時代のうちから、定年後に自分が何をするのか、お互いに探しておくことです。定年後、毎日顔を合わせるのは家族だけ、となるとお互いに息がつまってしまいますよね。

そして、もうひとつ大切なことがあります。それは夫婦それぞれの財布を持つこと。それが定年後に、お互いをひとりの人として認め合うための基盤となります。ある程度、お互いが経済的に自立できていれば、それぞれの夢への挑戦や人生の楽しみ方を認め合える、気持ちとお金のゆとりも生まれてくるはずです。
夫婦ともに働いておけば、老後の資金も貯まりやすく、当然財布も別々にできます。夫婦や家族などの共同体にとって、共働きは最強です。一方、共働きでなくても、財布や金融機関での口座は夫婦別々に持っておきたいもの。現役時代から、やりくりをして準備しておきましょう。

いど みえ

井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。

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