お金に困らないための基本は、現役時代も定年後も同じ

定年後には、現役時代とは異なった生活がスタートしますが、お金との付き合い方は、現役時代も定年後も同じです。お金に困らないための基本は、収入の範囲内で生活すること。そして、できる限り借金をしないことです。
では、収入の範囲内でやりくりするには、どうすればいいのでしょう。答えは、収入と支出をしっかりと把握することです。まず、毎月どの程度の収入があり、年間でどのように変動するのか、収入の水準について、今後10年以上にわたって見通してみましょう。
次に、支出です。収入は仕事をリタイアすることで大きく変わるかもしれませんが、支出については現役時代も定年後もそれほど変わらないかもしれません。収入の口は少ないですが、支出の項目は多く、そして細分化されています。できればこの1∼2年分、すべてをしっかりと把握するのが理想です。難しい場合は、大きな分類でよいので、全体を把握できるように努力してみてください。そして、月単位で、家計が黒字か赤字か、さらにその金額も確認してみましょう。赤字の場合は、支出の見直しが必要です。
収入から支出を差し引いた残りが、貯蓄となります。収支を把握して貯蓄額が決まれば、収入から貯蓄分を天引きするのがおすすめです。そうすれば、残ったお金はすべて使い切ることができますよね。
定年後になると、時間的な余裕が生まれるので、収入と支出の把握がより正確にできるようになるはず。収入の範囲内で生活することができれば、お金に困ることは少なくなります。住宅ローンなどの借金を完済できていれば、まずは安心でしょう。ただし、日常生活の収支はコントロールしやすいですが、交際費のような非日常な支出は読みにくいもの。どう対策するかは、定年後の生活の課題となります。

定年後に必要なお金の目安がわかるのは自分だけ

定年後には収入が限られ、基本は公的年金となります。あとは自分で用意しておいたお金に頼るわけですが、それも限りあるものとなるでしょう。収入の限られている定年後の生活で注意すべきことは、まず、大きな支出。貯蓄残高が大きく減ってしまうと、以降、不安を抱え続けることになっていまいます。
大きな支出項目としては、住宅(終の住処)の取得、住宅のリフォーム、車の買い替えなどがあります。どのように備えるか、現役時代から準備しておきたいですね。たとえば、車は保有するのではなく、カーシェアリングやレンタカーを利用する手もあります。モノにこだわりすぎず、柔軟な発想で方策を考えておくことも大切です。
次に注意したいのは、子どもや孫に関する支出と交際費です。家族や友人とのつながりは定年後の暮らしにとって大切なものですが、収入の範囲内でやりくりできるように節度を持ちたいものですね。
「老後生活に必要な金額はいくらになるか」との質問をよく受けます。超難問でお答えに困ってしまうのですが、百人百様です。いくら貯蓄があっても、支出が収入を大きく上回る家計なら、どこかの時点で貯蓄が底をつきます。逆に支出が収入を上回ることがなければ、定年後からも貯蓄残高は少しずつ増やしていけるのです。自らの家計のベストポジションは、自分で見つけ出すことが最善の答えとなります。

友人や仲間と共有することで、マネーの知識を高め、お互いを磨きあおう!

鏡は自分の姿を正確に写して見せてくれます。でも、自分の姿の長所と欠点までは教えてくれませんよね。家計の収支やバランスシートをいくら正確に把握しても、よい方向に向かうための方策までは分からないこともあるでしょう。家計診断を専門家に依頼するという手もありますが、費用がかかります。私がおすすめしたいのは、年代や家族構成などが近い友人と勉強会を持つ方法です。もちろん、いくら仲がよい友人でも家計を公開するのは抵抗がある方もいらっしゃるでしょう。そういうときは、リアルな金額ではなく、たとえば、支出のうちの食費が何パーセント占めるかなど、各項目に比率を使うとよいでしょう。そうやって他の家計と比べることで、支出を抑えるべき項目や上手に抑える方法をお互いに学び会うことができますよね。

いど みえ

井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。

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