相続は大仕事。兄弟姉妹間に亀裂を生む可能性も

個人的なことになりますが、私の両親はほとんど「終活」ということをせずに亡くなりました。父のときは母にまかせ、その母は入院した翌日に亡くなりました。人生、いつなにが起こるかわかりません。大切な人を失い、精神的に落ち込んでいる時に、煩雑を極めるのが相続です。自分の子どもへの相続では、このような大変なことをさせたくないと心から思っています。
相続は、ひとつの世帯の財産を整理整頓し、処分することです。自分自身の財産を考えてみると分かりますが、すべての財産や借金などを、法定上の資料とともに把握すること自体がとても手間がかかることです。しかも、把握している親が亡くなってしまうとすると、親の金融機関の口座がいくつあって、その通帳や印鑑がどこにあるのかを把握するだけでも大変になります。配偶者や子どもがいれば、どう分け合うべきかをすぐに決めることは容易ではないでしょう。
私も当時、親が残した家、家に残された家財道具をはじめとした数々のものをどうすればよいのか、途方に暮れたのを思い出します。残されたものを、できる限り兄弟姉妹と一緒に確認し、どうするのかを決めていく一方で、不動産や金融資産(負債を含めて)の確認を行い、兄弟姉妹間での合意をしなくてはならないわけです。財産をどのように分けるかの方針を決めるにあたり、兄弟姉妹の間に亀裂をもたらす恐れもあります。

兄弟姉妹間で情報を共有して、気持ちを通わせておくこと

親は子どもにできるだけ迷惑はかけたくないと思っているでしょう。では、子どもは親とどう向かい合えばよいのでしょうか。そこに決まった答えはないと思います。ただ、親子だから以心伝心で分かり合えるというものではありません。手間と時間はかかりますが、親と話し合いながらひとつひとつを丁寧に進めていくことが大切です。
まずは、親に「終活」を理解してもらうこと。まだまだ元気なうちから、亡くなった後のことを考えてくれというのは言い出しにくいものです。自主的に本人から言ってもらうのが一番よいですが、それもなかなか難しいように思います。だからこそ、年老いてきた親とは用事がなくても頻繁に行き来することが重要です。同居しているなら、毎日話しかけることです。そして、兄弟姉妹がいるなら、親とのコミュニケーションをできる限りオープンにして共有することです。最近では、SNSで簡単に情報共有ができます。日々の小さな積み重ねが、実際に相続の相談をする際にもきっとよい結果をもたらしてくれるでしょう。
そして、親の終活は、自分の終活の予行演習でもあります。子どもに迷惑をかけないためにも積極的に親の終活に関わっておきたいものですね。

親が元気なうちから準備して、相続で苦労しない下地づくりを!

人生は、いつなにが起こるか分かりません。親が万が一の時にはどうすればよいのか、親の望みや考えなどを聞いておきたいものです。たとえば、財産がどれくらいあるのか、また子どもが知らない財産があるのか、口頭でもよいので聞いておき、できればどう処分したいのかも確認しておきたいものです。兄弟姉妹がいれば、同じ話を共有しておきましょう。
そして、親に終活を理解してもらったなら、終活ノートを渡して、自分の思いとともに、詳細な財産に関しての記録、登記簿謄本や預金通帳や金融機関にある有価証券などの記録を残してもらうことが理想です。親が元気なうちはなかなか話しづらい内容ですが、親の望みを叶えることにもつながること。元気なうちにこそ要望を聞いておくことが大切ではないでしょうか。

いど みえ

井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。

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