「たて」の関係に慣れすぎていませんか?

新聞や雑誌などで、成人した子どもが親のことを語るコラムをよく目にします。その多くは「自分の親は『いい親』だが、いつまでも自分を子ども扱いしたり、生活の細かいことに口出ししたり、など課題がある」といったような内容です。
一般的に、子どもが社会に巣立つまでは親に責任があり、「たて」の関係が強いものです。一方、子どもが独立すると、大人どうし、人間どうしの、「よこ」のつながりに変化します。それに親が気付かずに、いつまでも子どもに「たて」の関係を強いるような場合に、子供は「やっかいさ」に感じ、親子喧嘩のもとになったり、疎遠になってしまったりすることが多いと思います。
また、こちらも一般論ですが、父親はどうしても「たて」の関係を重視しがちで、母親は「よこ」の関係に柔軟に対応できる傾向があると感じます。それは、日本はまだまだ男性が外で働くことが多く、会社では、上司と部下という「たて」の関係の中に常にさらされているからではないかと考えています。
この「たて」重視の傾向がある方は、定年後要注意です。定年後は、親子の関係など家族の世界だけでなく、外の世界も「よこ」重視のものに変わってしまうからです。

定年後、「たて」重視の態度で「やっかいなひと」に!?

定年前になると、多くの場合、子どもも働いているか独立しているでしょう。親子の関係は、すでに「よこ」になっているわけです。また、退職してしまえば、コミュニケーションの中心は、地域社会や趣味の集まりなど「よこ」の関係が強い場となります。そういった場において、年少者に偉そうにしたり、それまでのやり方にいきなり口を出したり、その場を仕切ろうとしたりすることは禁物です。良かれと思って行った言動でも、「たて」社会の名残が出してしまうと、コミュニティにうまく溶け込めず、「やっかいなひと」となってしまうでしょう。
私は、定年後もできるだけ仕事を続けることをおすすめしているのですが、その理由のひとつがここにあります。幼稚園や保育園からはじまる学校時代から定年まで、約50年前後にわたって、主に「たて」の関係に生きてきた人が、いきなり「よこ」の関係だけになるというのは、かなり厳しいのではないでしょうか。会社で重要な役職についていたり、厳しい競争にさらされてきた方はなおさらです。定年後も、短時間でも働き、徐々に「よこ」の関係に移行していくことをお勧めしています。

現役時代から、地域やご近所の「よこ」の関係に慣れておく

現役時代には、住んでいる地域やご近所については、あまり関わりがない方も多いのではないでしょうか。 定年前に、自分が住む地域の催しや活動に出かけて、「よこ」の関係に慣れておくことも大切です。隣近所との関係にも気を配っておきたいものです。例えば、いただき物が自分の家で食べきれないような場合には、「家では食べきれないので」とお隣さんに持っていくなど、できることから始めてみましょう。また、お隣さんではなく、同世代の世帯のご近所さんも大切です。同世代だと話も合いますし、近すぎるお隣さんだと逆に気を遣って話をしづらいということもあるでしょう。今のうちから定年後の生活を想像して、「よこ」の関わりを少しずつ意識してみてください。

いど みえ

井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。

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