定年後の"稼ぐ力"のモノサシとは?

定年後の"稼ぐ力"を測る目安として、まずは収入について考えてみましょう。
定年後に働くなら収入は多い方がよく、同じ働くなら「労少なく、収入多し」とありたいものです。この「労少なく」とは、労働時間だけでなく職場環境や人間関係など総合的なものを含めたものです。

そして、収入を考えるときの基準になるのが、現在の稼ぎです。今の収入を時給に換算してみると、定年後の"稼ぐ力"のイメージがつきやすくなります。例えば、年収480万円の場合、年間実労働日数を240日、1日の就業時間を8時間で計算してみると時給2,500円、年収720万円なら時給3,750円。実際には残業などもあり、もう少し低い金額になるかもしれませんが、これで今の自分の立ち位置がわかるのではないでしょうか。

では、定年後の収入はどうでしょう。現在、高齢者の雇用確保に関する施策などにより、多くの会社が65歳まで働けるようになってきており、70歳まで働ける企業も増えてきています。
ただ、60歳以上になると、6割の人が給与水準の3割減少、4割弱の人が給与水準は4割以上減少という現実があります※。年収720万円なら3割減で約500万円に、時給換算では約2,600円になります。ただし、60∼65歳までは、大幅に賃金が低下した場合を補う高齢者雇用継続給付制度があります。

一緒に働きたいと思われる人材になる

定年後に仕事をする際、収入を確保する視点で言えば、現役時代の職場に残るのが最も合理的で効率的と言えるでしょう。もちろんそれ以外の方法もあり、全体を大別すると3つの方向があります。

一つ目は、同じ職場に残り続ける方向。二つ目は、現在の仕事に関連する職場、つまり既知の分野で働く方向。三つ目は、新しい分野の仕事に就く方向です。完全リタイアして、投資でお金を稼ぐという方法もありますが、これは現在の仕事とほぼ関係のない仕事に就く三つ目に当てはまり、起業や自営業に近いものだと思います。

いずれの場合も、定年後に自分の居場所や役割をつくって"稼ぐ力"を発揮できるように、現役時代から意識しておくことが大切です。

@ 職場に残り続ける場合

定年後も会社や組織に残ってもらいたいと思われるような人材になっておく必要があります。余人をもってかえることのできないような専門性を持つとか、組織にとって不可欠となるように、現役時代から努力することが大切です。

A 現役時代の仕事に関連する職場で働く場合

この場合も@と同じで、「うちの会社や組織に来てもらいたい」と思ってもらえるような人材になるということが重要です。専門性だけでなく、例えば人の嫌がるような困難な案件を処理できるような分野で力を発揮してもよいと思います。

B 「新しい分野」の仕事に就く場合

現役時代から本職とともに実際にやっておかないと、定年後すぐの収入には結びつきにくいものです。例えば、副業・副職をして種をまいておくこと。また、一緒に働きたいと思われるビジネスセンス、スキル、アイデア、そして人柄など全人的に問われます。

いずれにしても、定年後の"稼ぐ力"をつけるには、現役時代から準備を積む必要があるのです。

定年は、人生に選択を与えてくれる好機!

合理的・効率的に稼ぐという視点はもちろん大事ですが、定年は、人生の選択の自由を与えてくれるものです。これまで生活のために、何気なく働いてきたという方には、本当に好きなこと、やりたい仕事を選ぶ機会を与えてくれます。
逆に、今の仕事が好きで、できれば定年後も働きたいと思っている方にとっても、自分の仕事を見直すよい機会です。どうすれば、職場や仕事に関係する人々に理解してもらい、有用な人材だと思ってもらえるのか、自分を見直す機会になると思います。

同じ道を歩むにしても、異なる道を歩むにしても、自分自身を根底から見直す、見直しを迫られるということは、100年時代と言われる人生をより充実させてくれるのではないでしょうか。ベストな選択ができるよう、現役時代のうちから心づもりを含めて準備していたいものです。

  • 2019年7月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
いど みえ

井戸 美枝(いど みえ)

CFP®、社会保険労務士。社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。経済エッセイストとして活動。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、数々の雑誌や新聞の連載記事の執筆をはじめ、講演、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題を紹介。近著に『定年男子 定年女子』共著(日経BP社)、『100歳までお金に苦労しない定年夫婦になる』(集英社)、『届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)など。

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