お金のしくじり失敗談
2020.4.8
ファイナンシャルプランナーのもとには、日々さまざまなお金にまつわる相談が寄せられます。
この連載では、読者の皆さんに学びのある「しくじり(失敗談)」を、赤裸々にお届け。頼藤太希さんの解説で、お金と上手に付き合うヒントを学びます。
第7回目の相談者は、大手メーカーの一般事務職で働く30代・独身の木下りえさん(仮名・35歳)。お給料は安定しているものの職場のIT化が進み、自分の将来の職場での居場所に不安を抱えていた中、生命保険の営業の話を聞くことに。最終的には、毎月約5万円の保険料を抱えて家計を圧迫してしまったというお話です。
相談に訪れた30代独身の木下さんは、大学卒業後、ひとり暮らしをしながら大手メーカーの一般事務職として働いています。お給料は比較的安定しているのですが、このまま一生独身なのかという不安とともに、いつまで健康に働き続けられるのかという将来的な働き方やお金についても心配していました。
さらに、職場のIT化の進展で、自分が担当している仕事の将来性も不透明。その状況が、安定した収入が定年まで続くのだろうかという不安に拍車をかけていたようです。そんな時に、勤務先に生命保険の営業職員が訪れ、保険の加入を検討することに。
営業職員の説明を聞いているうちに、さまざまなことが不安になった木下さん。病気リスク、死亡リスク、老後リスクに備えるべく、医療保険から死亡保険とあれもこれもと保険に加入。失業や転職のリスクに備えて、満期の時に保険金を受け取れる養老保険(貯蓄型の保険)にも加入したとのこと。
その結果、毎月支払う保険料が5万円を超えました。木下さんの給与手取り額は25万円程度ですので、保険料がひとり暮らしの家計を圧迫。毎月の生活に余裕がなくなり、保険の見直しをしようと考えたそうです。
そもそも、本当に必要な保障は何か、必要な保障額はいくらなのかをきちんと把握しないで保険に入っていたと語る木下さん。では、自分にとって必要な保障や保障額は、どのように考えていけばよいのでしょうか。
まず、ライフスタイルや家族構成によって必要な保険は全く違うという前提を認識しましょう。保険にたくさん入れば万一のときの保障も手厚くなりますが、それだけ保険料の負担が大きくなります。加入する際には、自分にとって必要な保障を考え、適切な保険に入ることが大切です。
独身で扶養する家族がいない木下さんのような方の場合は、特に事情がない限り、死亡保険を検討する必要はありません。しかし、木下さんは、多額の死亡保障が出る死亡保険に加入しており、死亡保険金の受取人が親になっていました。
読者の中でも、死亡保険金の受取人が親になっている方は要注意です。親が死亡保険金をもらわないと生活できないというケースはほぼなく、必要ではない場合が多いはず。保険金が本当に必要なのかどうかを考えてください。
木下さんのような独身の方が加入を考えるべき保険は、ずばり「医療保険」や「がん保険」です。
病気やケガで働けなくなって収入が減少しても、その間の生活費や医療費は待ったなしでかかります。貯蓄が十分あるなら話は別ですが、もしもの入院や手術に備えて、最低限の保険があると安心です。
ただし、民間の医療保険を検討する前に「公的医療保険」でどれくらいカバーされるかを知っておくことが第一です。実は公的医療保険の保障は意外と手厚いのです。ご存知の方が多いでしょうが、病院に行って治療を受けたり、薬をもらったりしても、自己負担は3割で済みます。
また、健康保険が適用になる医療費について、1ヵ月あたりの自己負担額(年収によって異なる)の上限が決まっている「高額療養費制度」というありがたい制度も利用できます。
例えば、年収が約370万~770万円の場合、1ヵ月の医療費として3割負担で30万円請求されたとしても、実際の自己負担額は月87,430円で済みます。入院だけではなく、通院であってもOKです。
また、高額な医療費がかかりそうな場合は、事前に病院に「限度額適用認定証」を提出しておくことも可能。高額療養費の限度額を超える医療費を立て替えることなく、約9万円を払うだけで済むのです。
公的保険は他にもあります。会社員が加入している健康保険では、病気やケガで会社を休んで給料がでない場合に支給される「傷病手当金制度」があります。休業4日目から最大で1年6ヵ月間、1日あたり標準報酬日額の3分の2が支給されるというこの制度。フリーランスや自営業者の人が加入する国民健康保険にはない制度ですが、会社員の方はフル活用したいところです。
以上のように、公的な保障の存在が、病気やケガのリスクをある程度カバーしてくれることをお分かりいただけたでしょう。
公的保険でどの程度カバーされるかを把握しておけば、過度に民間の保険に加入することは防げます。
公的な保障があることを考えると、木下さんのように扶養する家族がいない場合は、医療保険に加入するなら、入院日額5,000円程度が目安となるでしょう。さらに、入院せずに通院しながら治療するケースも多いので、通院保障もついているタイプの医療保険の方が使い勝手は良いかもしれません。これらを木下さんに伝えたところ、安堵の表情を浮かべました。
一方、独身で扶養家族がいない場合でも、自営業、フリーランスであれば、医療保険の入院日額は1万円程度準備した方が安心です。
上記アドバイスをふまえたうえで、医療保険には以下のポイントをチェックして加入しましょう。
保険商品のなかには、保険料の一部を積み立てることで、満期や解約時になったらお金が戻ってくる貯蓄型の保険もあります。リスクに備えながら、貯蓄に近いことができるというメリットがある一方、解約するタイミングによっては元本割れとなったり、月々の保険料が高額になったりするというデメリットも。
保障と貯蓄(資産形成)は分けて考え、保険商品では最低限の保障をカバーし、将来のためにお金を増やす手段は保険以外の金融商品や制度を活用することがおすすめです。
特に老後の資金を備えるなら、税制優遇を味方につけながら効果的にお金を増やせるiDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)や、つみたてNISAを積極的に活用しましょう。
iDeCoは、老後資産をつくるための制度であり、現役時代に一定金額を毎月積み立て運用し、その運用結果を老後に受けとることができる仕組み。毎月の掛け金が全額所得控除になることで所得税・住民税の負担が減る、運用中の利益に税金がかからないなど、節税効果が大きく得られる制度です。運用商品は、定期預金、保険、投資信託の中から選べます。
つみたてNISAは、投資で得られた利益に対する税金を非課税にできる制度。毎年の非課税投資枠は40万円、非課税期間は20年です。つみたてNISAで購入できる商品は、金融庁が厳選した投資信託から選ぶようになっていて、本稿執筆時点(2020年2月26日)では、173本あります。
現在販売されている投資信託は約6,000本もあることを考えると、初心者の方にとっても選びやすく、投資をスタートしやすい制度といえるでしょう。
加入している保険を見直すと同時に、老後のリスクに備えるための資産運用も検討してはいかがでしょうか。
※ 2020年4月現在の情報です。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
執筆:頼藤 太希
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