退職金相場は、大企業と中小企業で1,000万円以上の差があります。
日本の会社員の約7割は中小企業で働いており、中小企業に特化した情報を求める方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、中小企業の退職金の相場や現状、老後に向けて自分でできる準備方法について解説していきます。
中小企業の退職金の有無や相場
中小企業の退職金事情を知るために、まずは退職金制度がある企業の割合と退職金の相場を確認しましょう。
中小企業に退職金は存在するのか
中小企業でも、半数以上が退職金制度を導入しています。全体の割合について、下記のグラフにまとめました。

出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」
中小企業の65%が退職金制度を導入していることがわかります。一般的には、退職金制度を導入している企業の方が多いようです。
中小企業の退職金相場
次に、中小企業の退職金額平均を見てみましょう。退職金が支給されるためには一定の期間が必要になり、何年務める必要があるかは企業によって異なります。下記グラフは、勤続年数1年から支給額を記載していますが、すべての企業が1年目から支給するわけではないので、ご注意ください。

出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」
大学卒から定年まで勤めた場合は約1,200万円の退職金を受け取れることがわかります。
中小企業の退職金の有無や相場
大手企業の退職金相場と比較してみると……
中小企業でもらえる退職金は定年時点で約1,200万円ということがわかりましたが、この金額はどのようにとらえればよいのでしょうか。参考に、大企業の退職金相場も確認してみましょう。
中小企業の退職金は年々減少している
中小企業の退職金は大企業と大きな差があるとわかりましたが、相場は年々減少しています。
上記は、勤続年数38年の方が定年退職した場合の退職金相場の推移です。2006年からの10年で相場は減少しており、中小企業の中でも規模が大きい企業のほうがより減少していることがわかります。
減少の背景にあるのは、日本の景気や企業の退職金制度の見直しです。一般的な退職金制度では企業が社内で退職金を準備しており、独自に運用を行っています。ところが2016年以降、日本は低金利が続いており企業が退職金を準備することが難しくなっているのです。そこで退職金制度を見直し、減額や廃止する企業が出てきています。
また日本では、長年にわたって人口の減少と少子高齢化が問題になっており、今後も進行すると予想されています。そのため2013年度から国からもらえる公的年金は受け取り開始年齢が遅らされ、年々受給金額も減少傾向にあります。その上、退職金も減るとなると、老後資金の準備に大きな影響を与えることになるでしょう。
政府が推奨するのは私的年金
安心して老後生活を送るためには、公的年金や退職金に頼らず、自分でも準備をしておくほうが安心です。そこで活用できるのが、自分で自分の老後資金を用意する「私的年金」です。
私的年金は任意で加入する年金であり、国からもらえる公的年金とは異なります。
ここでは自分の意思で加入できる代表的な私的年金を2つ紹介します。
iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)
iDeCo(イデコ)とは、毎月一定の掛金を60歳まで支払って運用し、60歳以降に受け取る仕組みの私的年金です。
iDeCoの最大のメリットは、税金が安くなることです。掛金を支払うとき、運用でお金が増えたとき、60歳以降に受け取るときに税制優遇を受けられます。
ただし、iDeCoは自分で金融商品を選んで運用する必要があります。選んだ商品によっては元本割れするリスクがあることを理解した上で取り組みましょう。また、運用しているお金は原則として60歳まで引き出すことができません。iDeCoに支払いすぎて手元のお金がなくなってしまうのは本末転倒ですので、毎月の掛金は現在の生活も考えて決めると良いでしょう。
また勤務先の企業によっては加入できないことがありますので、事前に人事や労務の担当者に確認しておきましょう。
iDeCoについて気になった方は、ぜひ下記ページもご確認ください。
個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」:三井住友銀行 (smbc.co.jp)
個人年金保険
保険会社に毎月掛金を払い、一般的に60歳以降に「一時金」または「年金」としてお金を受け取ることができます。
iDeCoと似ていますが、iDeCoは運用次第で金額が変わるため、加入時に「将来いくらもらえるか」が分かりません。円建ての個人年金保険であれば、加入時に「将来いくらもらえるか」がわかります。円建てとは、日本円で保険料を支払い、日本円で年金を受け取ることです。
個人年金保険についての詳細は下記ページでも確認できますので、ぜひご確認ください。
個人年金保険 : 三井住友銀行 (smbc.co.jp)
老後を見据えた計画を早いうちから練ろう
老後の生活費の目安は人それぞれですが、生命保険文化センターの調査によると、夫婦2人の「ゆとりのある老後生活費」の目安は約36万円(月額)です。
夫婦でもらえる年金の目安は約20万円(月額)ですので、約16万円(月額)不足することになります。
この不足が25年間続くとすると、不足額の合計は約4,800万円です。
さらに、退職金も踏まえた不足額を確認してみましょう。
大卒から中小企業で働き定年退職した場合の退職金の目安は約1,118万円です。約4,800万円から約1,118万円を引くと、退職金も踏まえた不足額は約3,682万円となります。
iDeCoなどの私的年金を活用してこの不足額を補う場合、そのスタートは早いに越したことはありません。
ここでは、iDeCoの掛金23,000円・運用利回り年7.5%と仮定した場合の運用成果をシミュレーションしてみましょう。
上記の図から、30歳からiDeCoで掛金23,000円を積み立て、年7.5%で運用できたとすると、年金と退職金も踏まえた不足額を補えることがわかります。しかし、40歳や50歳から同じ条件で積み立てはじめた場合は、不足額を補うことができません。
この結果から、同じ掛金・同じ利回りでも、より早くはじめるほうが目標額に近づきやすいことがわかります。
今回のシミュレーションはあくまでゆとりある老後生活の目安に対するもので、人によって必要な生活費は異なります。
まずは家族で老後の過ごし方をきちんと話し合い、年金や退職金がいくらもらえるのかを知り、不足額を算出しましょう。その不足額に対して、なるべく早く準備をはじめることをおすすめします。
実際にご自分でiDeCoを運用した際、どれくらいの資産形成をすることができるのか、下記ページで簡単にシミュレーションすることができます。マネープランを立てる際にぜひご活用ください。
iDeCoの運用シミュレーション!
※この記事は2020年3月時点の情報を基に作成し、2022年11月に内容を更新しています。今後、変更されることもありますのでご留意ください。
- 執筆:花 惠理(はな えり)
- 不動産会社や住宅メーカーに勤務後、現在は不動産・金融関係をメインに執筆しているWebライター。大手メディアなどに多数寄稿。不動産業務には年金・保険・税務・保険などの知識も必要だと感じ、FP2級などの資格を取得。不動産や金融などのテーマを初心者にもわかりやすい言葉で解説することが得意。
ファイナンシャル・プランニング技能士2級/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士